コラム

イスラム国サヘル州の脅威──対外攻撃の拡大にトランプ政権の対応は?

2025年03月27日(木)10時36分

【対外的攻撃性の特徴と影響】

イスラム国サヘル州の対外的攻撃性の特徴であるが、他のテロ組織にも言えることだが、オンラインでの過激化とリクルートが顕著である。モロッコで逮捕された容疑者は、オンラインで過激化され、リビア人の司令官から指示を受けていたとされる。これは、デジタル技術を駆使した遠隔動員能力を示す。

第二に、攻撃の多様性である。モロッコでの計画では、遠隔操作爆弾による同時多発攻撃が企図され、従来の戦術とは異なる高度な手法が採用されていた。この攻撃性はモロッコのような観光依存国にとっては大きな脅威となり、テロ成功が経済的打撃と国際的批判を招く可能性がある。


また、サヘル地域の不安定性が北アフリカや欧州に波及すれば、難民流入やテロの連鎖を引き起こし、西側諸国に新たな安全保障上の課題をもたらす。モロッコ当局は過去10年で大規模テロを防いできたが、イスラム国サヘル州の持続的な攻撃意図は、対テロ政策をさらに試すものになろう。

【イスラム国サヘル州の今後】
 
2025年2月のモロッコでのテロ計画摘発は、国際安全保障上、イスラム国サヘル州がサヘル地域を超えた対外的攻撃性を示したケースと捉えられよう。その経緯は、中東での敗北後の再編成、地域の混乱を利用した拡大、モロッコという安定的国家への挑戦という形で進化してきた。

対外的攻撃性の背景には、グローバルなジハード運動の維持、モロッコの戦略的重要性、サヘル地域の不安定性がある。

今後、イスラム国サヘル州の脅威に対抗するには、軍事力だけでなく、情報収集や国際協力が不可欠である。モロッコの成功例は、事前監視と迅速な介入の有効性を示すが、デジタル空間での過激化対策やサヘル地域の経済・社会開発も求められる。

イスラム国サヘル州の攻撃性は、アフリカから欧州に至る地域の安全保障に影響を及ぼす可能性があり、国際社会の協調した対応が必要である。

【トランプ政権はどう対応するのか】

最後に、トランプ政権はイスラム国サヘル州にどう対応することが考えられるか。

現時点で、トランプ政権がイスラム国サヘル州に積極的な軍事行動に出ることは考えにくいが、トランプ政権はソマリア北部を拠点とするイスラム国ソマリア州の拠点を空爆し、最近ではイエメンの親イラン武装勢力フーシ派への軍事攻撃を積極的に行なっている。

上述のように、2017年のニジェール南西部で発生したトンゴ・トンゴ襲撃では米兵4人が犠牲となっており、米国権益を守るためなら攻撃を躊躇しない姿勢に徹するトランプ政権であれば、仮に同様の事件が発生した際、イスラム国サヘル州にも攻撃の手を強める可能性が考えられよう。

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

和田 大樹

株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO、清和大学講師(非常勤)。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として海外進出企業向けに政治リスクのコンサルティング業務に従事。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

マスク氏、政権ポストから近く退任も トランプ氏が側

ワールド

ロ・ウクライナ、エネ施設攻撃で相互非難 「米に停戦

ビジネス

テスラ世界販売、第1四半期13%減 マスク氏への反

ワールド

中国共産党政治局員2人の担務交換、「異例」と専門家
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story