コラム

イスラム国サヘル州の脅威──対外攻撃の拡大にトランプ政権の対応は?

2025年03月27日(木)10時36分
イスラム国サヘル州の脅威──対外攻撃の拡大にトランプ政権の対応は?

AustralianCamera -shutterstock-

<西アフリカのマリやブルキナファソで活動するイスラム国サヘル州がモロッコでテロ未遂。イスラム国支持組織の攻撃性が増すサヘル地域のテロ動向と国際社会への影響を専門家が分析>

2月下旬、モロッコの治安当局は差し迫ったテロ計画があるとして、イスラム国サヘル州(Islamic State in the Sahel Province)に連携する関係者たちをモロッコ各地で逮捕した。

容疑者たちは18~40歳の12人で、カサブランカ、フェズ、タンジェを含む9都市で活動し、イスラム国のリビア人司令官からテロ計画について具体的な指示を受けていたとされる。

押収物には武器庫、イスラム国(IS)の旗、数千ドル相当の現金が含まれ、遠隔操作による爆弾攻撃が計画されていたことが明らかになった。モロッコ当局は、モロッコはサヘルで活動する全てのテロ組織の主要な標的と述べ、イスラム国サヘル州がモロッコへの活動拡大を企図していると指摘した。

モロッコは過去10年間で大規模テロを防いでおり、近年40以上のテロ細胞を解体した実績があるが、今回のテロ未遂事件は、イスラム国サヘル州の脅威が北アフリカに及んでいることを示唆する。


【イスラム国サヘル州とは】

イスラム国サヘル州は、過激派組織イスラム国(IS)の地域支部の一つで、サヘル地域と呼ばれるサハラ砂漠南縁地帯、主にマリ、ニジェール、ブルキナファソを活動拠点としている。

この地域は広大な砂漠と貧困、政情不安が交錯する場所であり、過激派組織が根付きやすい土壌が広がっている。イスラム国サヘル州の起源は2015年に遡る。

この時期、中東で勢力を急拡大させていたISの影響がアフリカにも波及し、元々アルカイダ系の武装勢力「アル・ムラビトゥーン」に属していた一部の戦闘員が分裂を起こした。彼らはISのイデオロギーに共鳴し、忠誠を表明することで「イスラム国大サハラ州(ISGS)」を設立した。

この組織を率いたのは、アドナン・アブ・ワリド・アル・サハラウィという指導者である。彼の下でISGSは、サヘル地域の脆弱な社会構造や政府の統治力不足を巧みに利用し、急速に勢力を拡大していった。特に、地元住民への攻撃や誘拐、資源の略奪を通じて資金と影響力を確保し、地域の不安定化を一層進めた。

しかし、2021年にフランス軍が展開する対テロ作戦「バルハン作戦」の一環でアル・サハラウィが殺害され、組織は大きな打撃を受けた。それでもなお、ISGSは活動を停止せず、現在は「イスラム国サヘル州」と名称を改め、サヘル地域でのテロ活動を継続している。

この組織の存在は、サヘル地域の安全保障に深刻な脅威をもたらしており、周辺国や国際社会による対策が急がれている。

特にフランスや国連は、軍事介入や平和維持活動を通じて対抗を試みているが、地元の紛争や民族対立が絡む複雑な状況下で、完全な制圧は困難を極めている。イスラム国サヘル州は、地域の混乱に乗じて今後も活動を続ける可能性が高く、引き続き注視が必要である。

プロフィール

和田 大樹

株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO、清和大学講師(非常勤)。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として海外進出企業向けに政治リスクのコンサルティング業務に従事。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:トランプ政権による貿易戦争、関係業界の打

ビジネス

中国の銀行が消費者融資金利引き上げ、不良債権増加懸

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、3月速報2.2%に低下 サービ

ビジネス

英製造業PMI、3月は23年10月以来の低水準 新
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story