コラム

日本人が見過ごす「博物館」という財産を見直し、苦しむ地方の施設を救おう

2022年02月03日(木)18時58分
トニー・ラズロ
国立新美術館

FOTOSEARCH/GETTY IMAGES

<日本には約5700の博物館があるが、地方には経営が苦しい施設も多い。人生を豊かにしてくれる文化施設の価値を、いまいちど見直すべきだ>

初めて博物館を訪れたのは18歳くらいの時。ニューヨークの通称「ザ・メット(The Met)」だった。すごい行列があったこと、入館して5分後に「シーッ(静かに)」と博物館員に言われたことが印象に残っている。注意されてしまったのは、銅像を見てスケッチをしている画学生らしき人がいたからだ。

ザ・メットは日本語では「メトロポリタン美術館」。博物館ではなく美術館。英語では「The Metropolitan Museum of Art」と言い、博物館も美術館も同じmuseumだ。岡崎市美術博物館や豊橋市美術博物館でも分かるように、実は美術館=美術博物館で、日本でも博物館の範疇にしっかりと入る。

では、博物館とはそもそも何なのか。最近その意義が問われ始めている。ちょっと長いが、現在の定義は以下のとおり。

「博物館とは、社会とその発展に貢献するため、有形、無形の人類の遺産とその環境を、研究、教育、楽しみを目的として収集、保存、調査研究、普及、展示する公衆に開かれた非営利の常設機関である」

これは時代遅れではないか、という声が一部の専門家から上がっている。定義を管理する国際博物館会議(ICOM)が2019年に調査すると、「倫理的、社会的、環境的、政治的な課題についてもっと情報を提供すべき」といった主張が寄せられた。

日本は「博物館大国」と言われるが......

そこでICOMは、社会的な関わりを重視した新定義案を同年、京都の国際会議で発表。賛成する声もあったが、「定義というより理念」や「イデオロギー色が強すぎる」という批判も出て、結局、新定義案は採択の投票が延期となってしまった。

博物館は多くの言語で「ミュージアム」だが、これは古代ギリシャの学堂である「ムセイオン」にちなむ。ムセイオンと言えば、芸術や学問をつかさどる9人の女神ミューズ(ムーサ)を祭る神殿だ。ICOMは今年8月にプラハの会議で再び博物館の新定義について討論する予定だが、個人的には原点に戻って「ミューズ」を意識して論じてほしい。

日本には博物館が約5700もあり、「博物館大国」といわれる。特に国立新美術館(写真)、東京国立博物館、国立西洋美術館は人気が高い。でもこれらはみんな東京にある。地方ではここ数年、入場者数の減少によって経営が苦しい施設が目立っている。これらをどう守るか。

一つには、ICOMで提案されている新定義に合わせるという方法がある。つまり人々と社会的に関わる展示をする。例えば北九州市環境ミュージアムは、賞味期限内に消費できない食品を集めているなど、注目に値する。筆者もいつか行ってみたい。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米共和強硬派ゲーツ氏、司法長官の指名辞退 買春疑惑

ビジネス

車載電池のスウェーデン・ノースボルト、米で破産申請

ビジネス

自動車大手、トランプ氏にEV税控除維持と自動運転促

ビジネス

米アポロ、後継者巡り火花 トランプ人事でCEOも離
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story