コラム

技能実習生を「偽難民」にしてしまう日本の歪み

2020年12月16日(水)15時55分
周 来友(しゅう・らいゆう)

実習生の従事する産業は多岐にわたる(写真は2018年4月、千葉県の食品工場。本文とは直接関係ありません) TORU HANAI-REUTERS

<劣悪な環境に耐えられずに逃げ出したり、不当解雇された実習生に残された奥の手>

現代の奴隷労働とまで言われる日本の技能実習制度。ここで私があえて指摘しなくても、移動の自由を奪い、実質的に最低賃金以下で働かせる悪しき制度であることは、ニュースなどで見聞きしている人も多いと思う。

かつては中国人が大半だったが、いま最も多いのはベトナム人だ。従事する産業も、自動車や繊維の工場から農業や建設業界へと移り変わってきている。しかし、人権無視の問題は以前から変わらない。

日本には外国人向けの研修制度と技能実習制度があり、その全てが悪いとは言わない。私は1990年代後半、通産省(当時)が所管する海外技術者研修協会(AOTS、現在の海外産業人材育成協会)の研修に、通訳として関わっていた。研修生は来日後、最長1年間の一般研修を受け、その後企業で実地研修に従事する。その企業にAOTSが定期的に視察に訪れるという「まっとうな」研修制度で、研修を終えて帰国し、母国の発展に寄与している人材は少なくない。中国の黄菊(ホアン・チュイ)・元副首相(故人)もその1人だ。

そんな一面を知るからこそ余計に、技能実習をめぐる問題には心を痛めている。劣悪な環境に耐えられなくなった実習生が逃げ出したり、コロナ禍で業績が悪化した企業が実習生を不当に解雇したり、そんな実習生たちが家畜や農産物を盗むといった犯罪に手を染めたり......。実習生が受け入れ先企業の経営者や実習生を管理する組合の理事長を殺傷する事件もあった。

では、クビになったり、逃げ出したりした実習生はどうするのか。事実上「転職」は難しく、地下に潜るしかないように思えるが、実は奥の手がある。難民認定の申請だ。日本は難民をほとんど受け入れていないが、難民認定の申請は比較的誰でも行うことができるとされ、受理されると申請中のステータスとなる。そうすると、どんな仕事にも就けるし、母国への送金も可能だ。所在地を確認する電話がかかってくることもあり、もちろん母国に一時帰国はできないが、それさえ我慢すれば何とか生きられる。

この難民認定制度はこうした「悪用」ができないよう2年前に運用方法が見直されたらしいが、聞くところによれば今も「悪用」の実態は存在する。申請の総数こそ減ったが、最近では難民認定を申請するベトナム人やネパール人が増えており、その多くは元技能実習生のようだ。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4

ビジネス

ECB、12月にも利下げ余地 段階的な緩和必要=キ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story