コラム

コロナ禍の世界が熱望する「日本製」 揺るがぬ信頼を日本は自覚せよ

2020年06月03日(水)13時20分
石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)

埼玉の工場で製造される人工呼吸器 Issei Kato-REUTERS

<インバウンド消費が見込めない今、国内の製造業を見直してみるのはどうだろう>

ヨーロッパとアメリカに新型コロナウイルス感染が広がった2月末から、私の元には、海外在住の友人知人やそのまた友人から頻繁に連絡が来るようになった。皆、同じことを私に訊いてきた。「マスクはない?」「防護服はない?」「体温計はない?」。そして同じことを付け加える。「日本製で、ね」

私も最初の頃はツテを頼っていろいろと調べてみたが、今どき日本製なんて売っていない。日本で流通するマスクの7割は中国製だし、防護服も輸入品がほとんど。体温計も皆、日本の有名メーカーの物を欲しがるが、海外の人が欲しがる非接触型は日本ではメジャーでないし、そもそも一般人には手に入らないくらい需要が逼迫している。

そう答えると、皆がっかりして同じことを言う。「日本ならどんどん製造できると思ってたよ。いま必要なものがすぐ作れるのが日本だったでしょ。どうしちゃったの、日本?」

しばらく前から、利益率の低いものや単純な構造のものは人件費が安い中国や東南アジアで製造して当たり前、そうしないと利益が出ない──が日本人の認識だ。しかし、海外ではいまだに日本製への信頼が厚いことを今回の件で目の当たりにした。日本製品だけでなく、日本人に対するイメージも高い。クレバーな日本人だから、マスクも防護服もさっさと増産できるでしょ、という感じだ。だから、私が「日本の状況も欧米と同じ。より製造コストの低い国に工場を移してしまっているから、日本国内の製造業は空洞化している。日本も他の国の状況と変わらない」と言うと一様に驚く。日本どうしちゃったの? と。

そして私が「中国製ならあるよ、調達して送ってあげられるよ」と言うと皆、それは必要ない、と言う。中国製なら彼ら彼女らの国でも手に入るが、欠陥品の割合が高く、使い物にならないと問題になっているそうだ。中国は2カ月以上も都市封鎖していたのだから十分な検品もできなかっただろうし、ある程度の不良品は仕方がないのでは? と私は思うが、彼ら彼女らの国ではそれが大きな問題となっており、とにもかくにも日本製が欲しいのだそうだ。

なぜこんなことになってしまったのだろう。今の日本でマスクや防護服、医薬品、医療器具の製造工場に余力があれば、いくら作っても売れるだろう。でも残念ながら、日本国内で必要な分でさえ、十分に調達できているとは言えない状況だ。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、トランプ関税

ワールド

USTR、一部の国に対する一律関税案策定 20%下

ビジネス

米自動車販売、第1四半期は増加 トランプ関税控えS

ビジネス

NY外為市場=円が上昇、米「相互関税」への警戒で安
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story