コラム

世にも奇妙なホワイトハウス公式文書

2018年11月26日(月)15時55分

結局道具扱いのサウジアラビア

この文書を通して読んでみて気がつくのは、アメリカがサウジを守るために努力をするという話を一切していないことである。サウジはイランの脅威を強く感じており、とりわけムハンマド皇太子はイランを最大の脅威とみているのだが、そのムハンマド皇太子に安心を供与するということを目的としているというニュアンスはほとんど感じられない。

むしろ、このパラグラフの表現からにじみ出てくるのはアメリカはイスラエルのためにイランと戦っており、そのための手段としてサウジが必要と感じている、ということである。つまり、トランプ大統領にとっては、ムハンマド皇太子が殺害に関与したかどうか、イランから脅威を抑えることで安心するかどうかには関心がなく、あくまでもアメリカとイスラエルのために役に立つからサウジと同盟を組んでいるということになっている。

果たしてトランプ大統領の頭の中では、日本はイスラエルのような、真に守らなければいけない国家に見えているのか、それともサウジのように都合の良い道具のような国家に見えているのか、トランプ時代の日米同盟を考える上で避けては通れない問いなのかもしれない。

プロフィール

鈴木一人

北海道大学公共政策大学院教授。長野県生まれ。英サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了。筑波大大学院准教授などを経て2008年、北海道大学公共政策大学院准教授に。2011年から教授。2012年米プリンストン大学客員研究員、2013年から15年には国連安保理イラン制裁専門家パネルの委員を務めた。『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2011年。サントリー学芸賞)、『EUの規制力』(共編者、日本経済評論社、2012年)『技術・環境・エネルギーの連動リスク』(編者、岩波書店、2015年)など。

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