コラム

演出の派手さを競う北朝鮮問題

2017年04月29日(土)11時45分

仮に先制攻撃をするとすれば、北朝鮮との全面戦争を覚悟し、韓国や日本、そして米軍にも甚大な被害が発生することを受け入れなければならないが、現在のトランプ政権にはその覚悟があるようには見えない。先制攻撃によって北朝鮮の反撃能力を奪うとしても、その全てを破壊することは極めて困難であるため、一定規模の反撃を覚悟する必要はあるが、その覚悟があるとも思えない。また、そうした全面戦争に突入するだけの脅威が迫っている状況でもない。現在でも「全てのオプションはテーブルの上にある」とは言っているが、当面、先制攻撃を仕掛ける可能性は低いと思われる。

北朝鮮による先制攻撃はあるか?

常に挑発的な行動を取り、核開発、ミサイル開発に邁進する北朝鮮が、アメリカの軍事的圧力が高まっていく中で、先制攻撃を仕掛け、アメリカの脅威を排除する可能性もないわけではない。また、金正恩朝鮮労働党委員長の判断基準がどこにあり、どのような戦略を描いているのかが明白ではないため、そうした先制攻撃を思い描いている可能性を否定することも出来ない。

しかし、金正恩党委員長のこれまでの行動を見る限り、彼の行動原理の基礎には体制維持があり、核・ミサイルを保有し、アメリカへの反撃能力を持つことが体制維持にもっとも効果的であると考えている可能性が高い。体制維持が金正恩党委員長の行動原理であるという仮説が正しいとすれば、北朝鮮による先制攻撃はまず考えられない。先制攻撃をすれば当然のようにアメリカと韓国、そして国際社会全体を敵に回し、湾岸戦争やイラク戦争、リビア内戦のように圧倒的な軍事力を持つ諸外国による攻撃を正当化する状況を自ら招き入れることになる。それは体制維持という行動原理に反した結果をもたらすことになる。

そのため、朝鮮人民軍創設85周年の節目においても大規模な火力演習を行って報復能力を示す一方、アメリカの先制攻撃を誘発する恐れのある核実験やミサイル発射などは行わなかった。アメリカへの敵意をむき出しにし、自らの軍事力を誇示することで巨大な敵と戦う姿を見せることが体制維持につながるとの確信があり、同時に、偶発的にでも紛争の火蓋が切られることになればその体制は維持できないという恐怖もある中で、大規模火力演習という選択をしているのであれば、その行為は極めて合理的であり、体制維持という行動原理に適した選択であると言えよう。

中国による働きかけで非核化は可能か?

北朝鮮に対する先制攻撃も、北朝鮮による先制攻撃もないと仮定すると、当面考えられる選択肢は北朝鮮に対して圧力をかけるだけでなく、中国に働きかけ、北朝鮮の核・ミサイル開発を止めさせ、朝鮮半島の非核化を実現することが出来るか、ということになるだろう。軍事的な圧力を強め、制裁を強化し、その間に中国が動いて北朝鮮の非核化を進めるというのが理想的なシナリオとなる。

ティラーソン国務長官はFOXニュースのインタビューで、北朝鮮が核実験を行えば、中国が独自制裁を行うと伝えてきたと発言したが、その真偽は怪しいと思われる。

中国が仮に本気で北朝鮮の核実験を阻止し、独自制裁(その内容は定かではないが)を科すことも辞さないということであれば、過去5回の核実験に対して国連制裁の強化に抵抗し、しぶしぶ北朝鮮を追い詰めない程度の制裁内容で合意したことの説明が難しい。もちろん過去5回の核実験はトランプ政権が誕生する前のものであり、アメリカが「戦略的忍耐」と呼ばれる政策をとっていた時期であったため、中国もそれほどの圧力を感じていなかったから制裁の強化に消極的だった、ということは出来る。また、中国は北朝鮮の核開発に対しては強い憤りを感じており、勝手に核開発を進める北朝鮮を快く思っていないことは間違いない。

プロフィール

鈴木一人

北海道大学公共政策大学院教授。長野県生まれ。英サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了。筑波大大学院准教授などを経て2008年、北海道大学公共政策大学院准教授に。2011年から教授。2012年米プリンストン大学客員研究員、2013年から15年には国連安保理イラン制裁専門家パネルの委員を務めた。『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2011年。サントリー学芸賞)、『EUの規制力』(共編者、日本経済評論社、2012年)『技術・環境・エネルギーの連動リスク』(編者、岩波書店、2015年)など。

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