コラム

演出の派手さを競う北朝鮮問題

2017年04月29日(土)11時45分

しかし、中国が過去5回の核実験に対して強い制裁を望んでこなかったのは、中国が原則として一国による独自制裁を否定し、制裁をかける場合は国連の制裁のみを正当なものとして認めている、という大原則があったからである。この大原則を崩すことは、アメリカなどによる独自制裁を認めることとなり、それに対しては中国の利益に反する結果をもたらす恐れがあることを警戒している。とりわけティラーソン国務長官が4月28日(日本時間4月29日未明)の国連安保理の外相級会合で、「我々は北朝鮮の不正な活動を支援する、第三国の団体や個人への制裁を躊躇しない」と発言したことは中国にとって大きな問題として捉えられている。

というのも、北朝鮮との取引が圧倒的に多いのは中国であり、アメリカが一方的に中国企業や中国人に対して制裁をかけることは、国際社会における中国の弱さと受け取られる恐れがある。今年の秋に共産党大会を控える習近平指導部にとって、こうした国際的な弱さと取られるようなことは望ましいことではない。そのため、一国による独自制裁という枠組みそのものに反対してきたし、これからも反対し続けるであろう。

また、仮に中国が独自制裁を科して北朝鮮に圧力をかけたとしても、中国が北朝鮮指導部に対して働きかけるチャンネルは著しく細っており、独自制裁による影響がどの程度効果的なのか、疑問は残る。金正恩党委員長が権力の座について間もない時期に、叔父であり、中国とのパイプ役であった張成沢を殺害し、また異母兄であり、中国との関係が強かった金正男も殺害している。中国との関係が強く、金正恩党委員長のライバルとなり得る人物はことごとく排除しているところから見ても、中国が金正恩党委員長に働きかける術は限られている。仮に中国が政権中枢に近い人物を通じて働きかけようとしても、中国との関係が強いというだけで粛清の対象になるのだから、その役を進んで引き受けるようなことはしないだろう。そう考えると、中国が圧力をかけたとしても、中朝関係が悪化するだけで、具体的な北朝鮮の行動の変化を期待することは難しいと考えられる。

米朝直接対話はあり得るか?

北朝鮮に対する先制攻撃も、北朝鮮からの先制攻撃の可能性も低く、中国による働きかけで事態が打開出来る可能性も限られているとなると、状況を大きく変化させる可能性があるのは、北朝鮮が求めている米朝の直接対話を通じて、北朝鮮の体制を保証する一方で、核・ミサイル開発を断念させ、すでに保有している核兵器を放棄させるということが考えられる。

しかし、これもアメリカが北朝鮮の核放棄を対話の前提としている限り、実現する可能性は低いと思われる。ティラーソン国務長官は国連安保理の場で「北朝鮮が不正な兵器プログラムによってアメリカと同盟国に与えている脅威を減らすための確固たる段階を踏まなければ、我々は対話を考えることすら出来ない」と明言している。

すでに述べたように北朝鮮が自ら核・ミサイルプログラムを放棄することは考えにくく、対話を通じて体制保証がなされてから初めて核・ミサイルを放棄するという順序で考えていることは明らかである。しかし、アメリカが対話の前に核・ミサイルを放棄することを条件とするなら、対話を進める入り口に入ることすら出来ない。

プロフィール

鈴木一人

北海道大学公共政策大学院教授。長野県生まれ。英サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了。筑波大大学院准教授などを経て2008年、北海道大学公共政策大学院准教授に。2011年から教授。2012年米プリンストン大学客員研究員、2013年から15年には国連安保理イラン制裁専門家パネルの委員を務めた。『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2011年。サントリー学芸賞)、『EUの規制力』(共編者、日本経済評論社、2012年)『技術・環境・エネルギーの連動リスク』(編者、岩波書店、2015年)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国BYD、25年EV販売テスラ超えの公算 国内逆

ワールド

ロシアとウクライナ、新年の攻撃に非難応酬 ヘルソン

ワールド

スイスのバー火災、約40人死亡・100人超負傷 身

ワールド

石油タンカー追跡、ロシアが米に中止を正式要請 米紙
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 2
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 3
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    日本人の「休むと迷惑」という罪悪感は、義務教育が…
  • 8
    「断食」が細胞を救う...ファスティングの最大効果と…
  • 9
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 10
    【現地発レポート】米株市場は「個人投資家の黄金時…
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story