コラム

「軍事政権化」したトランプ政権

2017年04月10日(月)16時30分

気分次第の軍事介入

今回のシリアへのミサイル攻撃に対し、アメリカのメディア、とくにリベラルな立場を取るメディアは「トランプ大統領がついに大統領らしく振る舞い、残虐なアサド政権に一撃を食らわせた」と賞賛し、保守的な立場をとるメディアは「オバマ大統領のような弱腰外交とは異なる強いリーダーシップ」を賞賛している。孤立主義的な政策を志向するオルタナ右翼のメディアはバノンのNSC中核メンバーからの降格も含めて、今回のトランプ大統領の判断に対しては批判的だが、それを除けば概ねポジティブな報道が多かった。

しかし、攻撃開始からしばらく経ち、次第に今回の攻撃が、具体的な出口戦略を持たない、思いつきの気まぐれな軍事介入であり、ロシアへの事前通報(事実上のアサド政権への事前通報)も行ったポーズだけの介入であるということが明らかになってきたことで、批判的な論調が目立つようになってきた。

本稿であえて「軍事政権化」という表現を使ったのは、まさにこうした軍事介入が、シリアの子供の写真を見たという大統領の気分によって行われたことを懸念することを強調するためである。軍出身者によって固められた政権においては、軍事的オプション以外の選択肢を検討するような余地が生まれず、大統領の気分次第で軍事介入したくなれば、そのための軍事オプションを用意することは出来ても、介入した後の戦略や介入がもたらす外交的インプリケーションは大統領が一人で考えなければいけなくなる。

しかし、この政権で大統領がそうした先の先まで読んで判断するとは考えにくい。ホワイトハウスに詰める軍出身者はマクマスターを始め、優秀な人物が多いが、彼らはあくまでも大統領の命令を具体的なプランとして提供することにあり、それ以上の政治的戦略を練ることではない。

こう書くとまるでバノンがいた方が良かった、と言っているようにも見えるが、少なくともバノンをはじめとする「オルタナ右翼派」は対外的な介入には強く反対しており、それが軍事介入という選択を妨げる効果はあった(その他の政策が良いという訳ではない)。そのため、大統領には少なくとも判断するための選択肢が軍出身者の他に提供されていた。しかし、バノンが力を失い、クシュナーが軍出身者との連携を強めていけば、そうした「別の選択肢」がないまま大統領が判断することになる。

こうした「軍事政権化」したトランプ政権が、北朝鮮に対応するために空母打撃群を押し出し、気分次第で軍事介入することになれば、日本は直接北朝鮮の報復の対象になる。そうした状況に直面しているという現実を認識しておく必要はあるだろう。

プロフィール

鈴木一人

北海道大学公共政策大学院教授。長野県生まれ。英サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了。筑波大大学院准教授などを経て2008年、北海道大学公共政策大学院准教授に。2011年から教授。2012年米プリンストン大学客員研究員、2013年から15年には国連安保理イラン制裁専門家パネルの委員を務めた。『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2011年。サントリー学芸賞)、『EUの規制力』(共編者、日本経済評論社、2012年)『技術・環境・エネルギーの連動リスク』(編者、岩波書店、2015年)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 2
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映像...嬉しそうな姿に感動する人が続出
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 7
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    見逃さないで...犬があなたを愛している「11のサイン…
  • 10
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 7
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 8
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story