台湾のソフトパワー「小籠包」の美味が世界を席巻する!?
Soup Dumplings as Soft Power

鶏肉を使ったニューヨーク店の小籠包 THE NEW YORK TIMESーREDUX/AFLO
<日本を含む世界13カ国に170店以上を出店する小籠包が看板メニューの料理店「鼎泰豐(ディンタイフォン)」は、半導体と並んで台湾の経済文化外交を担う>
昨年のニューヨークのレストランシーンで最も注目された店の1つは、一見するとあまり目立たない。51番街とブロードウェイの角に位置する金色の建物には、英語と中国語で「鼎泰豐(ディンタイフォン)」という赤い文字が記されているだけだ。
しかし階段を下りて店内に入ると、約500人を収容する空間が広がる。多くの客席からはガラス越しにキッチンが見え、この店の有名な点心が作られる様子を眺めることができる。
世界的な料理帝国である鼎泰豐のなかでも、ニューヨーク店は最大規模の店舗。世界の食の首都と呼ばれる街で昨夏、これほどオープンが待たれた店はなかっただろう。開店が遅れたことに怒った客が1つ星のレビューを投稿するほどだった。
公式サイトにある創業の物語は、移民の親を持つ人なら誰もが聞いたことのあるものだ。1948年、21歳の楊秉彝(ヤン・ピンイー)は内戦下の中国山西省から、わずかな金を握り締めて台湾に渡った。彼は食用油を販売する会社の配達員として働き始めた。
10年後、その会社が閉鎖されると、楊は仕事で出会った妻の頼盆妹(ライ・ペンメイ)と共に自分たちの食用油店を開く。店は70年代初頭まで順調だったが、缶詰油の登場によって業績が急落。レストラン経営者の友人のアドバイスで、小籠包の販売を始めた。小籠包はすぐに人気となり、やがて油の販売をやめて料理に専念することになった。
半世紀後、その決断は大きな成功を収めた。いま鼎泰豐は、13カ国に170以上の店舗を展開している。昨年だけでもニューヨークのほかに、タイのプーケット、シンガポール、ドバイ、カリフォルニアのディズニーランドに新店をオープンした。