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荒川河畔の「原住民」(20)

「僕はホームレス」その長い髪とひげには「理由」と「秘密」がある...

2025年1月31日(金)14時40分
文・写真:趙海成

理由の3つ目は、恥を隠すこと。

征一郎さんは虫歯ができても歯医者に診てもらわないため、口の中の歯はほとんど落ちてしまい、小さな歯が4本残っているだけだ。口を開けて話をしたり、食事をしたりすると、口の中の「ブラックホール」が現れる。

ひげの覆いがあれば、この「ブラックホール」は美しい「水簾洞」(入り口が滝に隠された洞穴)になる。

ははは、これは筆者が考え出した比喩で、少し誇張しているかもしれない。

荒川河川敷のホームレス

桂さん(左)と征一郎さんは荒川のほとりで香ばしく焼いた羊の串焼きを食べている

4本の歯で焼いた肉を食べられた、25本も

征一郎さんは私にこう言った。

長年、カップラーメンを1日1パックしか食べていない。それが、お金を節約するだけでなく、歯がないことにも関係があるのかもしれない、と。

以前、桂さんと征一郎さんの2人に羊肉の串焼きをごちそうしたことがある。

征一郎さんには歯がないので、焼肉のようなものが食べられるかどうか少し心配していたが、その心配は取り越し苦労だった。

桂さんの七輪を使って、40本以上の羊肉の串焼きを焼いたのだが、征一郎さんは意外にも食べるのが早かった。桂さんがまだ1本も食べ終わらないうちに、征一郎さんはもう3本も食べていた。

結果的に征一郎さんは25本を食べた。私と桂さんを合わせても彼ほど多くはなかった。

私は好奇心から、征一郎さんに聞いた。

「あなたは歯がないのに、どうしてこんなに上手に食べることができたんですか」

彼は「何年も肉を食べたことがない」と率直に言った。こんなにおいしい羊肉では、歯がないことなどお構いなく、気がつけばお腹の中に入ってしまっていたそうだ。

おそらく彼が残した4本の小さな歯が頑張ってくれたのだと思う。

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