最新記事
シリア情勢

「そもそも安定した時代がなかった」シリアの運命はダマスカスとアレッポを結ぶ「回廊の覇者」が決める【地政学】

FRAGMENTED BY GEOGRAPHY

2024年12月19日(木)15時45分
アラシュ・ライシネジャド(テヘラン大学助教〔国際関係学〕)
反体制派の拠点への爆撃

アレッポは時の権力者が絶対に掌握したい戦略拠点だった(2015年、反体制派の拠点への爆撃) MAMUN ABU OMERーANADOLU/GETTY IMAGES

<外敵を阻止する自然の大きな「壁」がないシリアは、世界との貿易に開けていると同時に、軍事侵攻のルートにもなりやすい地形>

10年以上続いたシリア内戦が、バシャル・アサド大統領の出国により終わりを迎えた。今後は、反体制派のシャーム解放機構(HTS)を中心に、安定らしきものが戻ってくるだろう──。

そんなふうに考えるのは、残念ながら間違いだ。なにしろシリアには、戻るべき安定した時代など、ほとんどなかったのだから。

シリア内戦は、宗教やイデオロギーと同じくらい、その地理によって激化してきた。今回の戦争の終わりは、次の戦争の始まりを意味する可能性も十分ある。

【年表】シリアの戦いの歴史 を見る


シリアには、国内にも国境沿いにも大きな自然の「壁」がない。北西部は地中海に面しており、世界との貿易に開けていると同時に、軍事侵攻のルートにもなりやすい。

東にはユーフラテス川が流れ、中央から南辺には砂漠が広がり、北辺はトロス山脈の南麓の平原が広がる。つまり、シリアの地理には外敵を阻止する壁もなければ、国内で最終防衛線となる壁もない。

現代のシリア国境の大部分は人為的に引かれたものだ。このため国境は脆弱で、権力は独立性が低く、国家としてのアイデンティティーも乏しい。

一方、国内は地形によって6つのエリアに分かれている。南西部のオアシスと、北部の地域貿易の重要拠点、西の地中海沿岸部、南の険しい高原、南北に走る回廊、そして平らで不毛な東部だ。

不動産投資
インフレが進むいま、「投資用不動産」という選択肢に注目が集まる理由とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米11月モノの貿易赤字、1029億ドルに拡大=商務

ワールド

北朝鮮兵、先週1000人死傷 ロシア西部クルスク州

ワールド

イエメン国際空港空爆で重症の国連職員、ヨルダンに移

ワールド

アゼルバイジャン航空機の乗客ら、墜落前に爆発音と証
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 3
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 4
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 5
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 6
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 9
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 10
    なぜ「大腸がん」が若年層で増加しているのか...「健…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中