最新記事
日本社会

東大生の家庭の半数超が年収950万円以上という「出自の偏り」

2024年11月5日(火)10時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

上記は年収のデータだが、親の職業、出身高校、出身地域についても、一般群と比較することができる。<表1>は,結果を整理したものだ。

親の職業、出身高校、出身地域


父親の職業を見ると、39.9%が管理職で、大学生の子がいる年代の父親全体ではわずか3.6%なのとは大きく違っている。父が管理職である家庭から東大生が出る確率は、通常の期待値の11.2倍ということになる。母の職業を見ても、専門・技術職や管理職の割合が高い。

出身高校を見ると54.3%が国・私立で、これも高校生全体の組成とは大きく異なっている。出身地域は、東京や関東の割合が一般群より高い。女子に限ると東京出身者の割合は3割を超え、地域による入学チャンスの閉鎖性がもっと大きくなる。

こう見ると東大生の出自の偏りは明らかで、公正な能力主義が機能しているのか、と言う疑問も出てくる。当人たちは「自分が頑張った結果だ」と主張するのだろうが、家庭の経済資本や文化資本の影響は否めない。

現代の学校は、3つの社会的機能を果たしている。子どもを社会的存在に仕立てる「社会化機能」、社会の適所に適材を配置する「選抜・配分機能」、選抜の結果を人々に納得させる「正当化機能」だ。社会的地位が「生まれ」で決まる場合、人々の不満は大きくなるが、学校での(フェアな)競争の結果であれば受け入れられやすい。

しかしながら、学校での競争は100%公正なものではない。有力大学の学生の家庭環境から推測されるように、能力主義の衣をまとった属性主義が作用している。それを正当化するのは、既存の格差の維持・再生産に寄与することを意味する。

今回は東大生で見たが、政治家や各業界の指導者など、社会の上層部の人たちの「出自」はきちんと観察されなければならない。法が定める理念の虚構(機能不全)を見抜き、活気のある健全な社会を作るためだ。

<資料:『東大学生生活実態調査』(2021年度)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中