最新記事
不動産

「このアパートは旅行者専用になる」 観光ブームに住む家を追われる貧困層...スペインで問題深刻化

2024年7月13日(土)13時26分
スペイン観光ブームで住宅事情が悪化

7月11日、スペイン首都マドリード市内で3年間にわたる野宿生活を経験したフランシスコ・カリージョさんは、慈善団体が提供してくれた新居のアパートでベッドに横たわると、ようやく安心するとともに涙がこぼれ落ちた。写真は5月、マドリードの新居でベッドに横になるカリージョさん(2024年 ロイター/Violeta Santos Moura)

スペイン首都マドリード市内で3年間にわたる野宿生活を経験したフランシスコ・カリージョさん(62)は、慈善団体が提供してくれた新居のアパートでベッドに横たわると、ようやく安心するとともに涙がこぼれ落ちた。

年金生活者のカリージョさんは、南部ハエンから咽頭がんの治療のためマドリードにやってきたが、手頃な価格の賃貸住宅を見つけられなかった。


「今晩は赤ん坊のように眠るつもりだ」と語る。

スペインでは低所得層向けの社会住宅の供給が不足し、長期の賃貸契約の妨げになる法令も存在するため、カリージョさんのように金銭的な事情で住宅市場から退出を迫られる人が増え続けている。

事態をさらに悪化させているのは、観光ブームを背景に、エアビーアンドビーやブッキング・ドット・コムなどのプラットフォーム経由での旅行客向けの短期賃貸が活発化していることだ。最近数週間ではこうした状況に対する抗議デモも相次いだ。

スペインのホームレスは2012年以降で24%増えて2万8000人に達したことが政府統計で分かる。スペイン銀行(中央銀行)のリポートによると、賃貸住宅に住む人の約45%は貧困に陥るか社会から疎外されるリスクがあり、この比率は欧州で最も高い。

過去10年におけるホームレスの大幅増加は欧州全体に共通する。ただスペインの場合は、両親と暮らす選択をする若者も多く、問題の深刻さを覆い隠している面もある。

スペインでは18歳から34歳の60%余りは実家暮らしで、08年から22年までに両親の家に住む若者はスペインが欧州主要国で最も急速に増加している。

一方、スペインの社会住宅の在庫は全住宅のわずか1.5%にとどまり、欧州平均の9%よりもずっと低い。

民間賃貸住宅の入居を巡る競争は熾烈で、不動産サイトのイデアリスタによると、マドリードで掲載される1つの物件当たり約40人も応募が殺到する状況だ。

中道左派の社会労働党出身のサンチェス首相が率いる現政権は、向こう3年で公営住宅を18万4000戸増やす計画。サンチェス氏は5月、国内の社会住宅在庫を27年までの自身の任期中に欧州の平均まで高めたい考えを示している。

しかしスペイン銀行の見積もりでは、その目標を達成するにはさらに150万戸を供給しなければならない。

今の住宅建設ペースは年9万戸と需要に追いついておらず、08年の年65万戸を大きく下回っている。

ロドリゲス住宅相は9日、政府が目標実現に向けて新たな計画を始動させたと説明した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

欧州市民のEU支持が過去最高の74%、安全保障強化

ビジネス

経済・物価見通し実現していけば、引き続き金利引き上

ワールド

米上院商業委、周波数オークション巡る中国の影響調査

ワールド

中国向けベネズエラ産石油輸出が停滞、米大統領令受け
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 5
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 6
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 7
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 8
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 9
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 10
    【クイズ】トランプ大統領の出身大学は?
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中