最新記事
不動産

「このアパートは旅行者専用になる」 観光ブームに住む家を追われる貧困層...スペインで問題深刻化

2024年7月13日(土)13時26分

スペイン政府の穴を埋める民間の支援

たとえ需要の一部にしか対応できないとしても、政府の不十分な取り組みの穴を埋めようと慈善団体が民間資本を投入しつつある。

カリージョさんに住居を提供したのは、社会投資ファンドのテチョの傘下組織。テチョはホームレス支援活動をしている慈善団体に賃貸住居を届けており、4月にはコンサルティング会社のEYや事業用不動産サービスのCBREといった世界的企業を含む33のビジネスパートナーの支援を受けて国内株式市場に上場を果たした。


 

テチョは約230件のアパートを保有し、50の非政府組織(NGO)と協力して市場価格より30%低い賃料を設定。投資家は一定のリターンを確保しつつ、環境・社会・ガバナンス(ESG)の面で評価を高められる仕組みだ。

別の慈善団体、オガル・シはホームレス向けに400のアパートを貸し出しているが、2年前に経費節減のため物件の買い手を募り始めた。代表のホセ・マニュエル・カバリョル氏は、現在の住宅危機に向き合うには、官民双方が賃貸用の社会住宅を提供しなければならないと訴えた。

マドリード市の住宅問題担当部門責任者を務めるディエゴ・ロサーノ氏の話では、同市のような大都会の場合、地方から仕事を求めてやってくる移住者にも対処する必要があるという。

同市の社会住宅の入居待ち人数は4万8000人に上る。ロサーノ氏は、市として30年までに社会住宅在庫をほぼ3倍の1万5000戸に増やせるよう努力しているが、それでも需要を満たせないと認めた。

ロサーノ氏は、住宅の借り手の権利を守る目的で最近導入された法令が、逆にオーナー側に長期契約を結ぶ意欲を失わせていると指摘する。この法令は、社会的立場の弱い借り手は賃貸料を払わずに最長2年間は物件に住むことができると定めている。

そのため大家側は、最貧困層では払えないような高い敷金を要求するようになっている、とロイターが取材したNGOが明かした。

またこの法令が適用されない短期賃貸市場に物件が回される動きもあり、イデアリスタによると、長期賃貸物件の供給が1年で15%減少した半面、主に旅行者向けの短期賃貸物件は3月までの1年で56%も増えた。

年金生活者のカルメン・カハマルカさん(67)は最近、25年間住んでいたマドリード近郊のアパートを1カ月後に退去するよう通告された。アパートがアルゼンチンのファンドに売却され、旅行者向けの短期賃貸用に改装されると決まったからだ。

新居を探す間、できるだけ長く住み続けようとしているカハマルカさんは「このアパートは旅行者専用になる。ずっとここで暮らしてきたわれわれはどこに住むことになるのだろうか」と問いかけた。

自治体の間では、住宅があまりに不足している現状を踏まえ、旅行者向けアパートの提供を制限したり禁止したりする動きも出てきている。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2024トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中