「このアパートは旅行者専用になる」 観光ブームに住む家を追われる貧困層...スペインで問題深刻化
スペイン政府の穴を埋める民間の支援
たとえ需要の一部にしか対応できないとしても、政府の不十分な取り組みの穴を埋めようと慈善団体が民間資本を投入しつつある。
カリージョさんに住居を提供したのは、社会投資ファンドのテチョの傘下組織。テチョはホームレス支援活動をしている慈善団体に賃貸住居を届けており、4月にはコンサルティング会社のEYや事業用不動産サービスのCBREといった世界的企業を含む33のビジネスパートナーの支援を受けて国内株式市場に上場を果たした。
テチョは約230件のアパートを保有し、50の非政府組織(NGO)と協力して市場価格より30%低い賃料を設定。投資家は一定のリターンを確保しつつ、環境・社会・ガバナンス(ESG)の面で評価を高められる仕組みだ。
別の慈善団体、オガル・シはホームレス向けに400のアパートを貸し出しているが、2年前に経費節減のため物件の買い手を募り始めた。代表のホセ・マニュエル・カバリョル氏は、現在の住宅危機に向き合うには、官民双方が賃貸用の社会住宅を提供しなければならないと訴えた。
マドリード市の住宅問題担当部門責任者を務めるディエゴ・ロサーノ氏の話では、同市のような大都会の場合、地方から仕事を求めてやってくる移住者にも対処する必要があるという。
同市の社会住宅の入居待ち人数は4万8000人に上る。ロサーノ氏は、市として30年までに社会住宅在庫をほぼ3倍の1万5000戸に増やせるよう努力しているが、それでも需要を満たせないと認めた。
ロサーノ氏は、住宅の借り手の権利を守る目的で最近導入された法令が、逆にオーナー側に長期契約を結ぶ意欲を失わせていると指摘する。この法令は、社会的立場の弱い借り手は賃貸料を払わずに最長2年間は物件に住むことができると定めている。
そのため大家側は、最貧困層では払えないような高い敷金を要求するようになっている、とロイターが取材したNGOが明かした。
またこの法令が適用されない短期賃貸市場に物件が回される動きもあり、イデアリスタによると、長期賃貸物件の供給が1年で15%減少した半面、主に旅行者向けの短期賃貸物件は3月までの1年で56%も増えた。
年金生活者のカルメン・カハマルカさん(67)は最近、25年間住んでいたマドリード近郊のアパートを1カ月後に退去するよう通告された。アパートがアルゼンチンのファンドに売却され、旅行者向けの短期賃貸用に改装されると決まったからだ。
新居を探す間、できるだけ長く住み続けようとしているカハマルカさんは「このアパートは旅行者専用になる。ずっとここで暮らしてきたわれわれはどこに住むことになるのだろうか」と問いかけた。
自治体の間では、住宅があまりに不足している現状を踏まえ、旅行者向けアパートの提供を制限したり禁止したりする動きも出てきている。
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