「悪が勝利するために唯一必要なことは、善人が何もしないこと...」盟友ナワリヌイ・父ネムツォフの意思を受け継いで
Putin Killed My Father
亡命後、私の生活はがらりと変わった。ゼロから立て直すことになり、ドイツの国際公共放送ドイチェ・ウェレの記者として働き始め、主に旧ソ連圏出身の政治家や指導者にインタビューした。
それまで政治や市民活動の経験はなかった。でも私は父の政治的レガシーを受け継ぎたいと思い、仲間と共に「自由のためのボリス・ネムツォフ財団」を設立した。
この9年余りで、ロシア国内にとどまった人も国外に出た人も「消される」リスクは大幅に高まった。
ナワリヌイが獄死したことを知ったとき、私はミュンヘン安全保障会議の会場にいた。ショックだった。ナワリヌイは個人的な友人でもある。プーチンが殺害を命じたに違いないと思った。邪魔者を全て抹殺する気なのだろう。
今はとても暗い時代だ。ウクライナにとっても、ロシアにとっても、ロシアの反体制派にとっても。
ロシアの今の現実を分析するのに民主主義の枠組みを当てはめないでほしい。ロシアには本物の野党は存在しないが、ジャーナリストや知識人らを中心に体制批判の動きはある。ナワリヌイが設立した「反腐敗財団」は今でも強固に組織化された反体制派として大きな影響力を持っている。
ただ、反体制派は経済やインフラ、医療、教育など、ロシアの人々にとって切実な問題を十分に語っていない。魅力的な新しいアプローチでこうした問題を語らなければ。彼らは自由の価値や民主主義といった壮大な概念を説明しようとするが、真剣に耳を傾ける人がどれだけいるだろう。
生き残ることこそが使命
もちろん、未来のビジョンを提示する必要はある。ナワリヌイの言う「明日の美しいロシア」を。その構想づくりが私たちに課せられた仕事だ。希望がないとは思わない。リスクはとても大きいが、だからといって、諦めたり、何もしないわけにはいかない。
ナワリヌイが好んで引用した名言によると、「悪が勝利するために唯一必要なことは、善人が何もしないこと」だ。
今でも私は、ロシア国内から始まる変化に期待している。亡命者にできるのは支援や助言を提供すること。変革の旗手は国内から現れるだろう。
私がまずやるべきことは、生き残ること。そして、ネムツォフ財団のリーダーとして声を上げること。亡命者が移住先の社会に溶け込み、キャリアを築けるよう支援し、人的資本を守る必要がある。