最新記事
日本社会

「地方がいつの間にか見捨てられる......」 能登半島地震が明らかにした日本社会の重苦しい未来

2024年1月19日(金)09時35分
鈴木洋仁(神戸学院大学現代社会学部 准教授) *PRESIDENT Onlineからの転載
がれきとなった石川県輪島市の被災地

甚大な被害が出た石川県輪島市 Photo by James Matsumoto / SOPA Images/Sipa USA - REUTERS


1月1日に発生した能登半島地震で甚大な被害が出ている。神戸学院大学の鈴木洋仁准教授は「被災地は、以前から大きな地震が頻発しており、一部の専門家から危険性も指摘されていたが、この地域への対策を重視したようには見えない。誰も責任を取らない形で、なし崩しに『地方が見捨てられる』という状況が生まれつつあるのではないか」という――。


新聞が見出しに掲げた「見えぬ全容」とは

能登半島地震から1週間が経った1月8日の朝日新聞は、1面の見出しに「見えぬ全容」と掲げた。

「全容」とは、何を指すのだろうか。

死者や行方不明者の数だろうか。孤立状態にある人数だろうか。

「全容」という言葉の「全容」が見えないのである。それほどまでに今回の災害は把握が難しい。

どこで、どんな被害が生じているのか。誰が、何に苦しんでいるのか。何が、どれぐらい足りないのか。現地だけではなく、情報の中心地であるはずの東京でも、ほとんどわからないまま時間だけが過ぎていく。

情報が足りない。それ以上に、情報の不足具合すらわからない。

追い打ちをかけたのが、テレビやラジオの「停波」である。発災から3日も経たない1月4日午後4時時点で、NHK(約700世帯)をはじめ、地元テレビ局の石川テレビ放送・テレビ金沢・HAB北陸朝日放送の3局が約730世帯、北陸放送(MRO)では約2130世帯が影響を受けた。中継局の送信機が壊れたり、非常用電源のバッテリーが枯渇したりしたためである。

1月10日午前6時半時点の総務省の集計によると、石川県輪島市の地上波テレビではNHKが約700世帯、上記民放4局が約730世帯、ラジオではNHKが約700世帯、MROは約6000世帯に影響が続いている。

災害時には、携帯電話の通信状況は悪くなり、テレビやラジオといった放送に頼る割合が大きくなる。そこに、停波が続く。

内容だけではなく、物理的にメディアが届かなくなった。

民放がバラエティー番組やドラマを放送した理由

かねてメディアの東京一極集中は懸念され、批判されてきており、今回の地震でのテレビ局の対応を、そのひとつに挙げる見方もありえよう。

東京の民放のうちTBSを除く4局は、発生から数時間後には予定していた番組の放送へとニュースを切り替えたからである。L字と呼ばれる、文字情報を流しながらではあるものの、バラエティー番組やドラマを流し始めた。

一見すると報道特別番組ではなく、お正月用の特番を放送するのは違和感がある。公共の電波を使っている以上、一大事=大災害を報じなくてはならない、そんな理屈も成立しうる。

だからといって、そうした対応を非難したいのでは、まったくない。

ひとつめの理由は、どれだけの災害かわからなかったからであり、ふたつめには、災害以外にもテレビの公的な役割があるからである。

何が起きているのかわからない、それだけを伝え続けるよりも、気晴らしになったり、心を落ち着けたりするためにもニュース以外を流す。

そうした判断もまたあってしかるべきだろう。

問題は、そこにはない。

メディアの仕組みの面で、東京が地方を見捨てつつある、見捨てるしかない状況を見つめなければならない。

社会的価値創造
「子どもの体験格差」解消を目指して──SMBCグループが推進する、従来の金融ビジネスに留まらない取り組み「シャカカチ」とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:ウクライナ巡り市民が告発し合うロシア、「密告

ワールド

台湾総統、太平洋3カ国訪問へ 米立ち寄り先の詳細は

ワールド

IAEA理事会、イランに協力改善求める決議採択

ワールド

中国、二国間貿易推進へ米国と対話する用意ある=商務
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中