最新記事
中東情勢

「もう選択肢はない」とバイデンが判断した?...米英軍がフーシ派攻撃に踏み切ったことで、中東和平はさらに遠のく

2024年1月15日(月)13時52分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)
米海軍の駆逐艦がフーシ派拠点に巡航ミサイルを発射

米海軍の駆逐艦がフーシ派拠点に巡航ミサイルを発射 US CENTRAL COMMANDーHANDOUTーEYEPRESSーREUTERS

<貧困や汚職など、国内問題を「イスラエルとの戦い」のせいにして国民の目をそらしたいフーシ派。状況を打開できる可能性のある選択肢は1つだけ>

中東情勢がますます混迷を極めつつある。アメリカ軍とイギリス軍が、イエメンのイスラム教シーア派組織であるフーシ派の拠点を攻撃した。

イエメン国内の少なくとも16カ所の60の標的に対し、航空機と艦船、潜水艦から100発を超す精密誘導弾を発射した。

バイデン米大統領が攻撃に踏み切った理由は理解できる。現在イエメンの多くの地域を支配しているフーシ派は、昨年11月以降、紅海で27隻の商船に対してドローン(無人機)やミサイルで攻撃を行っている。

これにより被害を受けた国は50カ国を超す。紅海は、欧米とアジアを結ぶ海上輸送ルートの要衝だ。

しかし、今回のフーシ派への攻撃は、中東の戦争をエスカレートさせ、戦いを拡大させかねない。アメリカが一層戦争に引きずり込まれること、そして和平がますます遠ざかることは避け難い。

シーア派を国教とするイランの支援を受けるフーシ派は、スンニ派のサウジアラビアが支援するイエメン政府と長期の内戦状態にあり、2014年以降は首都サヌアを含む多くの地域を支配下に置いて統治する。

近年は、イランとレバノンのシーア派武装勢力ヒズボラの支援により、戦闘能力を大幅に強化してきた。

フーシ派はこの1年ほど、イエメン政府と戦う反政府勢力にとどまらず、ジハード(聖戦)のリーダーとして自らを位置付けようとしてきた。掲げているスローガンは「アメリカに死を、イスラエルに死を、ユダヤ人に呪いを、イスラムに勝利を!」だ。

その一環として昨年11月以降は、イスラエルがパレスチナ自治区ガザで多くの民間人を殺害していることへの報復と称し、紅海で商船への攻撃を繰り返している。

もっとも、英ケンブリッジ大学の中東専門家エリザベス・ケンドールの見方によると、フーシ派にとって商船攻撃は、国内の問題から国民の目をそらすための口実になっているという。

国内の貧困や汚職蔓延をイスラエルとの戦いのせいにし、国民の結束を強めようというわけだ。アメリカがフーシ派攻撃に踏み切ったことにより、今後どのような展開が予想できるのか。

カルチャー
手塚治虫「火の鳥」展 鑑賞チケット5組10名様プレゼント
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ関税巡る市場の懸念後退 猶予期間設定で発動

ビジネス

米経済に「スタグフレーション」リスク=セントルイス

ビジネス

金、今年10度目の最高値更新 貿易戦争への懸念で安

ビジネス

アトランタ連銀総裁、年内0.5%利下げ予想 広範な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプ政権の外圧で「欧州経済は回復」、日本経済…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中