最新記事
報道

1枚の風刺マンガで私は干された...ワシントン・ポストが削除した絵は本当に「人種差別的」か?

I Was Canceled for a Cartoon

2024年1月12日(金)11時10分
マイケル・ラミレス(ピュリツァー賞受賞の風刺漫画家)

皮肉なもので、私の作品を誇張と偏見の産物と批判する人たちはテロ組織とパレスチナの一般市民を区別できていない。そんな人々が私の作品に描かれた真実に対し、削除という方法でしか対処できなかったのは悲劇だ。

私はいつもこう言っている。「風刺漫画は笑いを取るものではなく、物議を醸すことを狙うものでもない。その主張への賛否は別として、優れた風刺漫画は読者に考えさせる。情報を提供すると同時に、読者に挑む。民主的なプロセスに読者を引き込もうとする」

自由な意見交換は民主主義の基盤だ。かつてトマス・ジェファーソンは書いている。「私たちの自由は報道の自由に懸かっている。ひとたび制限されれば、それは失われてしまう」

アメリカ建国の父たちが合衆国憲法に報道の自由を盛り込んだのは、思想や情報の伝達、それを送る権利と受ける権利、思想の拡散と意見の表明が自治と個人の自由を基盤とする政治システムに必要不可欠と知っていたからだ。

真実を「キャンセル」する

風刺漫画の目的は思考を促すことにある。思慮深い意見の交換を刺激し、みんなが議論を重ね、合意を形成していくプロセスを助けたい。

だが今は政治・社会的な公正さを過度に求める風潮があり、そこでは言葉も画像も武器とされ、特定の政治集団や被差別グループへの攻撃に用いてはならないとされる。実に寛容な姿勢に見えるが、自分たちの賛同できない考え方は排除してしまう。そして自分たちの主張が通らなければルールを変える。国民を子供扱いし、監視なしでは自由に言葉を交わせないようにする。これは言論の自由と人間の自由、そして真実に対する直接の脅威だ。

私の作品を非難する人たちは、人種差別という言葉を持ち出すことで大切な真実──ハマスがパレスチナとイスラエル双方の民間人を人間の盾にしているという真実──を「キャンセル」した。彼らは意図的に人口密集地区や病院の屋上からロケット弾を発射し、そこにイスラエル側の攻撃を向けさせ、罪なき人々の命を犠牲にしている。

作品のせいで自分が誰かに攻撃されるのは構わない。政治的な意見は人それぞれだ。言論の自由は保障されているが、その言論の結果は自分で引き受けるしかない。覚悟はできている。私は自分の描いたものを守るが、それを非難する人たちの権利も守る。

それでも最後に言わせてもらおう。ワシントン・ポストには「暗闇の中では民主主義は死ぬ」という標語がある。ただ真実を描いただけの風刺漫画に対して編集部内で異論・反論が上がり、自分たちの正義を振りかざして掲載を拒み、言論の自由を「キャンセル」するようでは、それこそ真っ暗闇ではないのか。

真実は時に痛い。それでもジャーナリストなら真実を照らし続けるべきだ。不都合な真実を暗闇に隠したい誘惑に、負けてはいけない。

試写会
『シンシン/SING SING』ニューズウィーク日本版独占試写会 45名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

再送-トランプ氏の長男がセルビア訪問、ブチッチ大統

ビジネス

25年春闘、三菱電は1万5000円で回答 組合要求

ビジネス

トランプ氏、関税上昇の可能性示唆 景気後退「全く予

ビジネス

カナダ、米国と貿易戦争激化なら石油輸出制限も=エネ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 3
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「腸の不調」の原因とは?
  • 4
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 5
    スイスで「駅弁」が完売! 欧州で日常になった日本食、…
  • 6
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 7
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 8
    トランプ=マスク独裁は許さない── 米政界左派の重鎮…
  • 9
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 10
    企業も働き手も幸せに...「期待以上のマッチング」を…
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 4
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 5
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 6
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 9
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中