最新記事
報道

1枚の風刺マンガで私は干された...ワシントン・ポストが削除した絵は本当に「人種差別的」か?

I Was Canceled for a Cartoon

2024年1月12日(金)11時10分
マイケル・ラミレス(ピュリツァー賞受賞の風刺漫画家)
08年にピュリツァー賞を受賞したときの筆者 AP/AFLO

08年にピュリツァー賞を受賞したときの筆者 AP/AFLO

<社会正義や差別に敏感なのはいいが、過剰反応は言論の封殺に直結する>

あまりに残虐で野蛮で、見るに堪えない光景だった。昨年10月7日未明、パレスチナ自治区ガザを実効支配するハマスの者たちは罪なき人々に襲いかかり、無慈悲に殺しまくった。男たちの首を切り落とし、揺りかごに眠る赤ん坊を撃ち、子供たちの前で親を射殺した。拷問の末に処刑された人、生きたまま焼かれた人もいる。平和な音楽の祭典に参加していた大勢の若者が銃弾に倒れた。その全ては写真や動画で世界中の人が見た。

大抵の人は恐怖に震えた。しかしレバノンのテレビに出演したハマス幹部のガジ・ハマドは、あの日の攻撃を称賛した。イスラエルが「削除」されるまでは何度でも攻撃を繰り返すと誓い、ハマスは「被害者」なのだから「いかなる攻撃も正当化される」と言い放った。

【画像】1枚の風刺マンガで私は干された...ワシントン・ポストが削除した絵は本当に「人種差別的」か?

このインタビューを見て、私は米ワシントン・ポスト紙に1枚の風刺画を提供した。ハマドと、彼のまとう「人間の盾」を描いた作品だ。

ところが同紙の編集部内で反対意見が出て、結局、私の作品は同紙のウェブサイトから削除された。私の絵はパレスチナ人への偏見と悪意に満ちており、「人種差別的」だと批判された。イスラエルによる報復攻撃によって大勢のパレスチナ人が死に、何百万ものパレスチナ人が苦しんでいる事実から目を背けているとも言われた。

読者に考えさせる風刺画

もちろん、この戦争はひどすぎる。どちらの側で死んだ人にも、私は同じように心を痛めている。住む家を破壊された人たちの悲しみは分かるし、ハマスに拉致された240人を超える人質の家族の気持ちも痛いほど分かる。だが、それと風刺画は別の話だ。

この風刺画は特定のイメージを描いている。ハマスという組織を代表する特定の男と、その男の発した特定の言葉に注目し、自分たちは犠牲者だと主張しつつ、一方で罪もないパレスチナの人々を犠牲にしている事実を描いた。

描かれた男はガジ・ハマド。テレビで見たハマドの顔に似せてある。組織の名はハマス。男の上着に「HAMAS」と入れた。吹き出しのせりふ(「イスラエルはよくも一般人を攻撃できるな......」)と男の体に縛り付けられた罪なき人々の姿で、ハマスの主張を映し出した。

ハマスはテロ組織で、イスラエルが一般市民を攻撃していると非難する一方、自分たちが一般市民を苦しめている事実にはふたをする。だが先に攻撃を仕掛けたのはハマスであり、民間施設に立てこもり、イスラエルが攻撃を予告した場所から市民が避難するのを妨げているのもハマスだ。

ガザの人々は被害者だが、ハマスは被害者ではない。

ヘルスケア
腸内環境の解析技術「PMAS」で、「健康寿命の延伸」につなげる...日韓タッグで健康づくりに革命を
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:来るAI端末競争、オープンAIはまず軽量

ワールド

マクロスコープ:政府の成長戦略会議、分科会でも積極

ワールド

タイとカンボジア、戦闘継続 トランプ氏との電話協議

ワールド

フィリピン中銀、0.25%利下げ 予想通り
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 8
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 9
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中