最新記事
北朝鮮

実は中露より高リスク、「1つ間違えれば核戦争」...北朝鮮問題の解決へ「意外と取り組みやすい」第一歩とは?

THINK ABOUT A PEACE TREATY

2023年8月24日(木)11時48分
トム・オコナー(米国版シニアライター)

「まずは完全で検証可能かつ不可逆的な非核化を実現する。それまでは朝鮮戦争の正式な終結宣言など論外だ。下院アジア太平洋小委員会の委員長として、私はこの法案を絶対に葬る」。キムはそう断言した。

だが、HR1369を提出した民主党のブラッド・シャーマン下院議員は、この「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」(英語の頭文字を連ねてCVIDと呼ぶ)に懐疑的で、「世界をより安全にするという点では失敗」だったと指摘する。

「安全になったのは、この言葉を口にする政治家や官僚の周辺だけだ」と、彼は言う。「CVIDを連呼してさえいれば誰にも批判されない。その間にも北朝鮮は着々と技術や兵器の開発を進めているのだが」

それでも金正恩に手を差し伸べるのはなぜか。「自分の敵と話をしなければ何も始まらない。いま一番に話すべき相手は彼らだ」とシャーマンは言い、その際は相手の立場を理解してやる必要があると続けた。

「こちらから見れば、こちらは善人。だが平壌から見れば、こちらは危険な存在であり、身を守るためには核兵器が必要ということになる」

そうであれば、北朝鮮が核兵器を完全に放棄するとは考えにくい。核武装を断念した途端にアメリカの軍事介入を招いたイラクやリビアの例を見ているからだ。

ウクライナは独立時に安全保障と引き換えに旧ソ連製の核兵器を放棄したが、結果としてロシアの軍事侵攻を許してしまった。ただし北朝鮮の核開発に対する監視は必要だと、シャーマンは言う。保有する核弾頭数の制限はもちろん、核兵器が第三者の手に渡るのを防ぐ対策も欠かせない。

もちろん「アメリカが平和協定の交渉を望むと宣言しても、それが協定の締結につながる保証はない。平和協定が非核化への大きな一歩になる保証もない」が、費用対効果を考えれば、それがベストな選択だとシャーマンは考える。

「これならアメリカ人の命を危険にさらすことはない。経済制裁を通じた北朝鮮への圧力を減らす必要もない」

不安定な「休戦」状態を正式な「終戦」へ転換するのは「正しい方向への一歩」だと、シャーマンは確信する。「なにしろ相手は、もうすぐロサンゼルスに核ミサイルを撃ち込めるようになる。だからこそ、これ(平和条約)が大事なんだ」

ニューズウィーク日本版 トランプショック
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月22日号(4月15日発売)は「トランプショック」特集。関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日産取締役、ルノーとの兼任ゼロに スナール会長ら退

ビジネス

中国の若年失業率、3月は16.5%に低下

ビジネス

米エヌビディアCEO、中国市場の重要性強調と国営メ

ビジネス

仏エルメス、米で関税を価格転嫁へ 第1四半期は予想
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 3
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判もなく中米の監禁センターに送られ、間違いとわかっても帰還は望めない
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 7
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 10
    関税を擁護していたくせに...トランプの太鼓持ち・米…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 6
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 7
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 8
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 9
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 10
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中