実は中露より高リスク、「1つ間違えれば核戦争」...北朝鮮問題の解決へ「意外と取り組みやすい」第一歩とは?
THINK ABOUT A PEACE TREATY
53年7月27日に休戦協定が結ばれたとき、戦況は北緯38度線(第2次大戦末期にアメリカが勝手に引いた境界線)を挟んで膠着状態にあった。そしてこの線をなぞるようにDMZ(非武装地帯)が設定され、その北と南でソ連の支援する北朝鮮とアメリカの支援する韓国が対峙することになった。そのきっかけとなった東西冷戦はとっくに終わったが、南北朝鮮の緊張は今も続く。
「わが国は北朝鮮に対し、今も交戦中かのように振る舞っている」と、リーフは指摘した。「北朝鮮も同様だ。いまだ交戦中という前提が双方にある限り平和への道は開けない」
今は中国とロシア、北朝鮮の3国が過去数十年に見られなかったほど接近している時期。だからこそ今の時点で北朝鮮との平和条約締結に動けば、別の面でもアメリカの利益になるとリーフは考える。台湾奪還に向けた「中国の戦略的計算を難しくする」効果があるからだ。
「核抑止ばかりを過大に重視」
国防総省で次官補のアジア・太平洋安全保障担当特別補佐官や北朝鮮担当上級顧問を務め、今は米平和研究所(USIP)にいるフランク・アウムも、朝鮮半島の安定に向けて議会が動くべきだと考える。ただし、そのためにはアメリカ政府が今までとは違う対応を示し、和平への本気度を見せる必要があるという。
「北朝鮮が率先して、あるいは近いうちに非核化へ動くというシナリオは非現実的だ。アメリカ議会が、北朝鮮の非核化を含まない平和協定を支持するというシナリオも非現実的だ」と、アウムは本誌に語った。
「だからこそ難しいが、長期の希望的な目標としての非核化を堅持しつつ、まずはアメリカが譲歩して平和構築への道を示す必要がある」
アウムの提案には「アメリカが朝鮮半島への戦略的核兵器の配備を中止することや、人道支援および新型コロナウイルス用ワクチンの提供、北朝鮮への渡航禁止措置の解除、経済制裁の一部緩和、そして終戦宣言の支持」などが含まれる。
その代わりアメリカは「北朝鮮に対し、朝鮮半島の完全な非核化を目指すとしたシンガポール声明の再確認を求めるべき」であり、その上で「双方は平和と非核化に向けた相補的な行動を同時に取らねばならない」と、アウムは言う。
シンガポール声明は2018年6月に当時の米大統領ドナルド・トランプと北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記(現)が署名したもので、両国間の外交では最高の成果と言える。
この歴史的な首脳会談の後、19年2月にはベトナムで2回目の会談が行われ、同年6月にはDMZで韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領も交えた3回目の会談が行われたが進展は見られず、気が付けば以前の緊張状態が戻っていた。