最新記事
東南アジア

タイ国会、首相選出を3度目の延期「第一党ピター党首の資格審査結果待ち」

2023年8月3日(木)19時22分
大塚智彦
タイ「前進党」のピター・リムジャロェーンラット党首

5月の総選挙で第一党になった「前進党」のピター・リムジャロェーンラット党首だったが……  CHALINEE THIRASUPA - REUTERS

<国民の不満は爆発寸前に──>

タイ国会のワンムハドノー下院議長は8月3日、翌4日に予定していた首相選出の投票を延期することを明らかにした。

5月の総選挙で第一党になった「前進党」のピター党首の首相選挙への立候補が資格無効として投票が回避されたことの可否が現在も憲法裁判所で続いていることを理由に延期を決めたとしている。

ワンムハドノー下院議長は、憲法裁判所がピター党首の資格審査に対して結論を出すとみられる16日以降に首相選出手続きはずれ込むと見方を示した。総選挙から2カ月以上が経過してもなお新首相を選ぶことができないという異例の混乱事態がさらに継続するわけで、前進党支持者だけでなく他の野党支持者からも不満の声が高まっており、バンコク市内のタイ国会周辺では抗議デモが続いている。

3度目の新首相選出延期

総選挙で第一党に躍進した前進党のピター党首を首相候補として野党系政党8党の連合で投票に臨んだのは7月13日だった。しかし下院500議席、上院250議席の当選に必要な過半数の支持を得ることができず、延期となってしまった。

野党側は2度目の選出作業を同月27日に実施しようとしたが、25日に国会が「同じ会期中に同一の議案を審議しない」という原則を主張して「ピター党首の新首相への立候補」を無効とする決定を下し、投票は実施されなかった。

この際、ピター党首の立候補資格に関して選挙管理委員会が疑問を示し、憲法裁判所にその妥当性の判断が委ねられることになった。

同時にピター党首が禁止されているメディア関連の株を保有しているとの疑惑を選管が指摘したため、黒白が決着するまでピター党首の議員資格も一時停止され、27日にはピター党首が議場からの退去を余儀なくされる事態にも発展。国会は混迷の度をさらに深めた。

その後ワンムハドノー下院議長らが協議した結果、8月4日に再々度の首相選出の投票を実施することを明らかにしていた。

前進党の王室に関する公約が反感か

総選挙で第一党となりながらもその党首が首相に選ばれないという事態の背景には、前進党が公約の一つとして掲げていた国王や王室の改革があるという。前進党は刑法122条で規定された最高刑で禁固15年の「国王、王室に対する不敬罪」の見直しを選挙公約として打ち出し、民主化を求める若者や学生、都市部の知識層の支持を集めて第一党に躍進したという経緯がある。

ところがこのタイの最大のタブーである国王・王室に関する改革要求が、上院の親軍議員や保守系議員の反発を買い、これが一回目の投票に反映されて当選に必要な票を獲得できなかったというのだ。

プラユット前首相(新首相選出までは暫定首相)は2014年にクーデターで当時のインラック・シナワット首相率いる民主政権から実権を奪取し、軍の力を背景にした強権弾圧政治を続けてきた。上院議員たちはプラユット政権時代に選挙ではなく指名で選ばれただけにプラユット派、ひいては親軍派、そして保守派の議員が大半を占めている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米大統領権限で3カ国に関税、法的根拠巡り専門家から

ワールド

トランプ関税4日発動、メキシコ・カナダ・中国に 貿

ワールド

中国、WTO通じて対抗へ 米国の追加関税に

ワールド

米国関税、為替への影響や米金融政策の動き「見極め」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 4
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 5
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 6
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 7
    メーガン妃からキャサリン妃への「同情発言」が話題…
  • 8
    マイクロプラスチックが「脳の血流」を長期間にわた…
  • 9
    またか...アメリカの戦闘機「F-35」が制御不能に「パ…
  • 10
    トランプ「関税戦争」を受け、大量の「金塊」がロン…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 5
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 10
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中