「ザルすぎる」アメリカの対中制裁──米連邦政府職員の年金を「制裁対象」中国企業が運用している
THE CHINA LOOPHOLE
MFWが開設されてから今年3月末までの9カ月間に、4917人の加入者が1億7905万8781ドルをそこにあるファンドに託した。制裁対象の中国企業にいくら投資されたかは不明だが、セールズに言わせれば、金額は大した問題ではない。
「たとえ1社だろうと、制裁対象の企業への投資は看過できない」
FRTIBに助言を行う諮問委員会には10以上の労働組合や職員団体が加わっているが、その1つである米郵政公社の職員団体の代表エドマンド・カーリーは加入者の選択肢が増えたことを歓迎している。
ただ、MFWの「ファンドが非倫理的または違法な投資をしているなら、資金がどこに行くかが分かるように完全な透明性を担保すべきだ」と話す。
とはいえアメリカから中国に流れる膨大な資金に比べれば、MFWのファンドの対中投資など高が知れている。中国企業はアメリカ、さらには世界の資本市場で過去40年余り何兆ドルもの資金を調達してきたと、国際金融に詳しく米政府の要職も務めたロジャー・ロビンソンは指摘する。
その過程で米中の企業も投資家も利益を上げた。彼らの投資は世界経済を再編し、中国の数十年に及ぶ経済成長の追い風となって中国の生活水準を押し上げ桁外れの富を生んだ。
TSPやMFWを通じて数百万人のアメリカ人がそうと知らずに数多くの中国企業の株を保有している。それらの企業の多くは経済制裁の対象外だ。
「中国は大きく変化しており、この新たなチャンスを見逃せば長期的なツケは高くつくかもしれない」が「投資がプラスの結果になる保証はない」と世界最大級の資産運用会社ブラックロックは指摘。同社が運営するファンドはTSPのMFWを通じて提供され、制裁を科された企業少なくとも8社が含まれる。
「資金枯渇」を狙ったはずが
実は中国市場の運用成績は何十年も前から世界市場を下回っている。22年6月末までの30年間の運用利回りは、MSCIグローバル・インデックスの年7.9%に対し、MSCIチャイナ・インデックスは1.3%。制裁の可能性も懸念材料だ。
「企業が制裁などのガバナンスの問題に違反するリスクが増大しているとしたら、投資家や年金受給者にプラスになるわけがない」と英オックスフォード大学中国センターのジョージ・マグナス研究員は言う。