「ザルすぎる」アメリカの対中制裁──米連邦政府職員の年金を「制裁対象」中国企業が運用している
THE CHINA LOOPHOLE
TSPの運用資金の一部が制裁対象の企業に投じられることは「経済的にも倫理的にも地政学的にも重大な過ちだ」と、トランプ政権下で無任所大使を務めたネーサン・セールズは警告する。
本誌の委嘱によって、独立した立場でこの問題を明らかにする初の調査が実施された。
米軍の元高官や共和党のマルコ・ルビオ上院議員、民主党のジミー・パネッタ下院議員をはじめ議会のメンバーも公務員の年金が対中制裁の抜け穴に利用されることを懸念している。超党派の10人の議員が昨年、FRTIBに連名で書簡を送り、対策を求めた。
違法でなくても倫理的に問題
キロ・アルファ・ストラテジーズが、MFWのファンドのスクリーンショットを撮って調べたところ、少なくとも115のファンドが、制裁リストに載っている30社の中国企業のうち少なくとも1社に投資を行っていた。115のファンドのうち22は対中投資専門のファンドだった。
TSPの現在の加入者は680万人。その全員がMFWを通じてより広い資本市場で老後のために蓄えてきた虎の子を運用できる。
MFWの利用資格はTSPの口座に4万ドル以上の資金があり、最初の投資に1万ドル以上を充てられること。ただし運用額の上限は口座にある資金の25%までだ。
FRTIBのラビンドラ・デオ事務局長は本誌の取材に対し、米証券取引委員会(SEC)と米財務省の外国資産管理局(OFAC)の規定に抵触しない限り、MFWのファンドは自由に投資先を選べ、FRTIBにはその選択に口出しする権限はないと、文書で回答した。
OFACの「特別指定国民および資格停止者(SDN)」リストは、指定された企業への投資を禁じた唯一のリストだが、先述の115のMFWのファンドが投資する中国企業はいずれもこのリストには載っていない。
FRTIBによれば、MFWを運営しているのは資産運用会社のバンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BNYメロン)で、独立したファンドマネジャーが自分のファンドをそこに入れているという。
トランプ政権下で米海軍長官を務めた投資銀行家のリチャード・スペンサーは、ファンドマネジャーは違法行為を犯しているわけではないが、彼らの行為は倫理的には非常に問題があると話す。
「彼らには(制裁対象の中国企業に投資して利益を上げる)権利(ライト)がある。だがそれは正しい(ライト)行為なのか」