最新記事
BOOKS

「あの...」若い客に見つめられ話しかけられた「バス運転手」に起こった意外な出来事

2023年6月26日(月)14時45分
印南敦史(作家、書評家)
バス運転手

写真はイメージです U.Ozel.Images-iStock.

<40代後半で、高校教師からバスドライバーへ。人生の選択はさまざまな経験をもたらす>

人生の要所要所において、人はさまざまな選択をする。自分で決めたことであるならば、その先に続く道筋は本人が望むものであるはずで、誰にも異を唱えることはできない。

しかしそれでも、『バスドライバーのろのろ日記』(須畑寅夫・著、三五館シンシャ)の著者が選んだ道は、多くの人の予想を超えるものではないだろうか。なにしろ社会科を教える私立高校の教師の職を捨て、40代後半でバスドライバーになったというのだから。

おそらくは年収が下がるであろうことは想像に難くない。事実、トータルの労働時間としては高校教師時代よりもきつくなったそうだ。


 家族を養っていかなければならない立場であったから、収入を度外視することはできなかったが、それでも私にとってお金はあまり大きな問題ではなかった。なぜなら、私にとって「バスドライバー」は小さなころからの憧れの職業だったからだ。(「まえがきーー『なんでわざわざ運転手に?」より)

にもかかわらず教師になったのは、大学を卒業して就職する際、「大人の判断」をしたから。しかし、心のどこかでは「乗り物の運転士になりたい」という気持ちがくすぶり続けていたのだという。

著者は、どうしてもやりたいという思いに突き動かされ、50歳間近のタイミングで「憧れの職業」に就いた。私は運転手になりたいと思ったことはないが、バスの運転手であれ他の職種であれ、「憧れの仕事に挑戦したい」という気持ちを持ち続け、諦めきれないという気持ちは十分に理解できる。

「エンジンは『ニュー4HK1型』?」オタクに絡まれる

とはいえ、いろいろなお客を乗せる以上、実際に仕事を始めれば日常的にさまざまなストレスを抱えることになるであろうと容易に想像がつく。例えば良い例が、守るべきルールを守って走行しているにもかかわらず、「遅い」と感じた人からの不満だ。


私に聞こえるか聞こえないか程度の小声で「おせーなぁ」とか、ため息まじりに「トロイなあ」とぼやくお客もいる。そういう声ほど不思議と耳に入ってくる。聞かせたくて言っているのだろうが、はい、バスドライバーにはよく聞こえております。(36ページより)

小声のぼやきだけでなく、「時間がないから急いで」と急かしてきたり、「×分までに駅に着かないと電車に間に合わないんですけど......」などと要求してくる人もいるのだとか。そういう人はバスでなく、タクシーを利用するべきである。それでもバスに乗りたいなら、渋滞の可能性も考慮したほうがいい。

いずれにしても、入社して2年もすればクレームにも慣れ、受け入れられるようになったという。「そういうものだ」と思ってしまう自分が怖くなることもあるそうだが、慣れなければやっていられないのも事実なのだろう。

社会的価値創造
「子どもの体験格差」解消を目指して──SMBCグループが推進する、従来の金融ビジネスに留まらない取り組み「シャカカチ」とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中