中東から始まったアメリカ外交の落日
THE AMERICAN CENTURY ENDS IN THE MIDDLE EAST
サウジアラビアの場合、自律とは資源大国としての影響力を地政学的「資本」に変換することを意味する。昨年10月にはアメリカの原油増産要請を無視する形で、イランやロシアを含むOPECプラス加盟国と共に減産を強行。この動きにアメリカは警戒心を示し、バイデンはそれがもたらす「結果」について警告した。
「アメリカは今も国際社会で唯一の『極』を自任しているが、事実は違う」と、サウジアラビアのエネルギー相の元上級顧問モハマド・アル・サッバーンは本誌に語った。「世界は多極化している。中国、ロシア、アメリカ、EU、そしてサウジアラビア王国もある」
彼らの力の源泉は石油だけではない。イスラム教の2大聖地の守護者として独自の地位を保ち、世界で最も急速に成長している主要経済圏であり、アラブ連盟とイスラム協力機構(OIC)の重要なメンバーだ。
変化は内政面でも進む。サウジアラビアは伝統に固執し、イスラム原理主義を信奉してきたが、ムハンマド皇太子は次の国王として近代化に取り組み、宗教を超えた国民的アイデンティティーの確立を進めている。かつてアメリカはこの変化を認めていたが、次第に疑念を強めている。
アメリカの「威圧的で一方的な政策の追求」は「自国と自国の主権に誇りを持つ国には通用しない」と、サッバーンは言う。「サウジアラビア王国は国益、特に経済的・政治的国益に基づいて決定を下す。他者の意見や押し付けは考慮しない」
サッバーンは同国の経済的・地政学的「多様化」を皇太子の改革計画「ビジョン2030」と直接結び付けた上で、こう主張した。「私たちが他者の利益を尊重するように、誰もがサウジアラビア王国の国益を尊重しなければならない。いかなる国も国際社会におけるサウジアラビア王国の決定に干渉すべきではない」
「冷戦に勝った」という誤解
旧ソ連の崩壊から30年超、中東やその他の地域で起きている最近の出来事は、軍事・経済・文化の力を兼ね備えたアメリカの魅力が世界で失われてきている証左だと、一部の外交専門家は懸念を表明する。「現在のアメリカが世界に示しているモデルは、1991年当時ほど魅力的ではない」と、最後の駐ソ連米大使ジャック・マトロックは言う。
1956年に外交官のキャリアをスタートさせたマトロックは、世界中で自己主張を強める中国の成功について、米外交の「軌道修正につながる真剣な自己洞察のきっかけにすべきだ」と本誌に語った。