中東から始まったアメリカ外交の落日
THE AMERICAN CENTURY ENDS IN THE MIDDLE EAST
「中国は過去何十年間も、他国との紛争を積極的に引き起こすことがなかった。おかげで世界に敵はほとんどいない」
主要な周辺国との間にいくつもの領土問題を抱えているものの、中国は世界の130近い国々にとって今や最大の貿易相手国だ。習が唱える広域経済圏構想「一帯一路」などを通し、経済・外交的な影響力を「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国に及ぼすようにもなっている。
世界最大の石油輸入国である中国にとって、中東諸国の歓心を買うことが特に重要であることは明らかだ。イランとサウジアラビアはいずれも、貿易や安全保障協力の枠組みであるBRICSプラスや上海協力機構への参加を望んでいる。実現すれば、今のロシアのようにアメリカ主導の経済制裁の対象になっても耐え抜く力を中国は手にするかもしれない。
石油は第2次大戦後にアメリカとサウジアラビアの間に築かれた戦略パートナーシップの核だった。このパートナーシップは中東戦争とそれに続く70年代の石油危機、そして9.11同時多発テロの後も続いた。
アメリカは、サウジアラビア政府が行っているとされる人権侵害にも目をつぶった。だがジャーナリストのジャマル・カショギ殺害事件をめぐり、ジョー・バイデン米大統領はサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子を「世界ののけ者」として扱うと発言。しかもバイデン政権がイエメン内戦に介入しているサウジアラビアへの軍事支援を停止し、イランとの核交渉再開に向けて動き出したことで、アメリカとサウジアラビアの間には大きな亀裂が生じた。
中国政府の新疆ウイグル自治区(イスラム教徒が住民の多数を占める)に対する扱いをめぐっても、アメリカの非難に同調する中東諸国やイスラム諸国はほとんどなかった。アメリカが長きにわたったイラクやアフガニスタンでの戦争に終止符を打ち、中国が突き付ける難題への対応に軸足を移したことで、中東は分裂し混乱したまま、支援を必要とする状態のままで放り出された。
「アメリカは中東諸国の開発に対する切実なニーズを無視するか、十分な注意を払ってこなかった」と、範は指摘する。「この種の挑戦は中国だけでなく、他の多くの国々からも突き付けられていることをアメリカは理解する必要がある。中国を含む多くの国々は自国の運命を自らコントロールすることを望み、多極化した世界の到来を希望している」