「時限爆弾」だと専門家は警告...アメリカ社会を蝕み始めたスポーツ賭博、その標的とは
RISKY BUSINESS
特に気がかりなのは、20代のスポーツ賭博人口が最も急激に増加していることだ。「ギャンブル依存症のリスクがひときわ大きいのは......スポーツ賭博を行う18~24歳の男性たちだ」と、NCPGのキース・ホワイト事務局長は昨年、ネットメディアのインタビューで語っている。
「若い人たち、特に25歳未満の人は脳が発達途上で、依存症になりやすい。なかでもギャンブル依存症のリスクがとりわけ大きい」と、ニューヨーク・プロブレム・ギャンブリング評議会でチームリーダーを務めるパメラ・ブレナーデービスは言う。
その結果、借金を抱えたり、人間関係が壊れたり、仕事が長続きしなかったり、心理的幸福感が損なわれたりするなど、深刻な問題が生じるケースが多い。
「ギャンブルをすればするほど、その人はさまざまな領域でリスクの大きい行動を取るようになる。ギャンブルを始める時期が早ければ早いほど、ギャンブルそのものだけでなく、抑鬱や不安や自殺傾向などのメンタルヘルス上の問題を起こしやすい」と、ラトガーズ大学ソーシャルワーク大学院の教授で、同大学院ギャンブル研究センターのリア・ナウワー所長は言う。
多くの人にとって、ギャンブルはあくまでも娯楽だ。大学バスケットボールや、アメリカンフットボールのスーパーボウル、サッカーの英プレミアリーグの試合に賭けても、常に依存症になるわけではない。
しかし、たばこやアルコール、オピオイド系鎮痛薬への依存症と同じように、ギャンブル依存症になる人もいる。米国精神医学会の「精神障害の診断・統計マニュアル(DSM)」では、「ギャンブル障害」をヘロインやオピオイド系鎮痛薬への依存症と同じ範疇(はんちゅう)に分類している。
「議論はあるが、たばこ、ドラッグ、薬物への依存を引き起こす最も強力な要素は(脳内化学物質の)ドーパミンだ」と、メンフィス大学ギャンブル教育・調査研究所のジェームズ・ウィーラン所長は言う。「脳内で放出されるドーパミンの量は、(依存症の原因になる)ほかの行動を取るときより、ギャンブルをするときのほうが多い」
ギャンブルの習慣により、生活に支障が生じている人の19%が自殺を図るという研究もある。この割合は、あらゆる依存症の中で最も大きい。
スポーツ賭博には、ほかのギャンブルとは異なる特有のリスクがある。スポーツ賭博を行う人たちは、ほかのギャンブルを行う人たちに比べて、自分の賭けが手堅いと考える傾向があるのだ。競技や選手やチームのことをよく知っていて、運任せではなく、自分の知識とスキルに基づいて賭けていると考えるのだ。