「時限爆弾」だと専門家は警告...アメリカ社会を蝕み始めたスポーツ賭博、その標的とは
RISKY BUSINESS
そのため、賭けの結果を実際以上に予測できるという幻想を抱く可能性がある。そうなると、賭けがうまくいかなかった場合、一層深刻な問題に陥りかねない。
スポーツ賭博業者は、人々のこのような心理をうまく利用しようとする。その際、特に標的にされるのが若い男性たちだ。
規模の大きい大学と契約を結び、キャンパスで広告を行う許可を得ている業者もある。ただし、そうした業者は、21歳以上の人だけが広告を見られるようにしていて、それよりも若い人たちが賭博を行うのを防ぐための措置を講じていると主張する。
こうした契約はAGAの自主規制に反しているように見える。19年の「スポーツ賭博のための責任あるマーケティング規則」は、キャンパスでの広告を禁止している。
スポーツ賭博の派手なCMは映画スターやスポーツ選手を起用し、スポーツの勝者を当てるカギは運ではなく予測スキルだとアピールする。BIAコンサルティング社は、今年のスポーツ賭博関連の全米の広告費は18億ドル近くになると予測している。
業界の対策は効果が未知数
こうした広告宣伝攻勢の背後にあるのは、市場規模の大きさだけではない。最終的には少数の勝者しか残れない競争の激しさも要因だ。淘汰が進む前に市場シェアを確保しようと多くの業者がしのぎを削り、新規顧客の獲得競争が「制御不能なギャンブル」のリスクを高めている。
業者は手数料無料の賭けや倍率ボーナスなどの販促策を展開。また選手のアシスト数など、試合結果以外の要素に賭ける「プロップベット」を含め、あらゆる種類の賭けを導入している。賭け参加者の感情が高ぶり、リスク管理能力が低下しがちな試合中に賭ける「インプレイ・ベッティング」を提供する業者もある。
誰もが現状を問題視しているわけではない。AGAのケーシー・クラーク上級副会長は、賭博の合法化は違法ギャンブル関連のリスクを軽減する効果があると主張する。また、業界は啓発キャンペーンや賭けに費やす時間や予算を制限できるアプリ内ツールなどを通じ「責任あるギャンブル」の推進に努めていると言う。
AGAはさらに本誌への追加の回答で、問題のあるギャンブルについての電話相談件数の急増は、こうしたギャンブルの件数そのものの増加と直接の相関関係はなく、業界の啓発キャンペーンで認知度が高まった結果である可能性もあると指摘した。
だが相談サービスの設置や、販促キャンペーンとスターを起用したCMの最後に「責任あるギャンブル」を推奨する対策が問題行動の抑止につながるかどうかは未知数だ。