最新記事
ギャンブル

「時限爆弾」だと専門家は警告...アメリカ社会を蝕み始めたスポーツ賭博、その標的とは

RISKY BUSINESS

2023年5月11日(木)16時30分
メーガン・ガン(本誌記者)

230516p42_STK_04.jpg

マサチューセッツ州でスポーツ賭博が解禁された初日のボストンのカジノ JOHN TLUMACKIーTHE BOSTON GLOBE/GETTY IMAGES

アメリカでのスポーツ賭博合法化の流れはニュージャージー州から始まった。最高裁の合法化判決以前は、1992年の連邦法「プロフェッショナルおよびアマチュアスポーツ保護法(PASPA)」によってラスベガス以外のほとんどの場所でスポーツ賭博は違法とされていた。

同法はバスケットボールの名選手だったビル・ブラッドリー上院議員(当時)が提唱したもので、合法的なスポーツ賭博の拡大阻止が目的だった。賛成派は選手の八百長行為を防ぎ、スポーツの公正さを守るのに役立つと主張した。反対派は闇ギャンブルを仕切る犯罪組織の力を強めるだけだと反論した。

ただし、ブラッドリーの地元ニュージャージー州では、以前から合法ギャンブルを支持する動きがあった。同州のアトランティックシティーは78年、ラスベガスがあるネバダ州以外で初めてカジノを合法化した都市となった。11年には住民投票でスポーツ賭博の合法化提案が承認され、12年にクリス・クリスティー州知事(当時)が合法化法案に署名した。

違法の州でも電話相談が急増

だが、NCAAと4大プロスポーツリーグがPASPAを根拠に州を連邦裁判所に提訴。州は敗訴したが、最終的に最高裁まで上告した。

この間にスポーツ賭博をめぐる空気は大きく変化し、多くの州が関心を示した。もちろん、ギャンブル業界も合法化を支持し、多額のロビー資金を投入した。

長年あらゆる賭博に反対の姿勢を貫いてきたプロスポーツリーグも立場を変更。14年、プロバスケットボールNBAのアダム・シルバー・コミッショナーはニューヨーク・タイムズ紙に寄稿し、未成年の賭博防止策やギャンブル問題を抱える人への支援策などの導入を条件にスポーツ賭博を解禁する時が来たと主張した。

18年5月、最高裁はニュージャージー州を支持し、PASPAを違憲と結論付けた。

同州で合法スポーツ賭博が初めて行われたのはこの判決のわずか1カ月後。間もなく問題のある賭博行為も増え始めた。19会計年度、州の相談サービスにかかってきた電話は606件。それが21年度には2倍以上の1439件に増えた。

同州の賭博を追跡調査しているラトガーズ大ギャンブル研究センターによると、今や全米平均の3倍に当たる6%以上の州民が「ギャンブル障害」を抱えているとみられる。それより症状が軽いギャンブル問題に悩む州民は約15%で、こちらも全米平均の3倍近いという。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中