「時限爆弾」だと専門家は警告...アメリカ社会を蝕み始めたスポーツ賭博、その標的とは
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<ここ数年で多くの州がスポーツ賭博を解禁し、カジノ業者の収益と州政府の税収が増えているが、ギャンブル依存症への懸念も高まっている>
毎年春に開催される米大学男子バスケットボールの「NCAA(全米大学体育協会)ディビジョン1・トーナメント」は、大学スポーツの頂点ともいうべき花形イベントだ。しかし、それだけでなく、この大会は大勢の人が莫大な金を賭ける機会にもなり始めている。
もはや職場の同僚とささやかな金を賭けるだけではない。米カジノ産業の業界団体「アメリカ・ゲーミング協会(AGA)」によると、「アメリカで最も大金が賭けられている競技会」になっている。
AGAによれば、今年の大会では推計6800万人のアメリカ人が賭けた総額は155億ドルに上る見込みだという。昨年の4500万人、31億ドルと比べて大幅に増加することになる。驚異的な成長の原動力になっているのは、オンラインでの合法のスポーツ賭博の人気が高まっていることだと、AGAは指摘している。
2018年の連邦最高裁判決によって道が開かれて以来、合法のスポーツ賭博市場は急拡大している。アプリで手軽にオンライン賭博にアクセスできることと、莫大な資金を投じた広告キャンペーンが行われていることがその後押しになってきた。
これまでにスポーツ賭博を合法化した州は36州。さらに8つの州が合法化を検討中だ。現在、スポーツ賭博が合法とされている土地で暮らしている人は、アメリカの成人の半分以上に上る。
こうした状況を背景に、カジノ企業は空前の売り上げを記録し、州政府の税収も増加している。そして、ギャンブル依存症など賭博にまつわる深刻な問題も急増するだろうと、多くの専門家が危惧している。
問題が広がっている証拠に、ギャンブル関連の相談サービスに寄せられる相談件数が増えている。21年のデータ(入手できる最新のデータ)によると、業界の支援を受けている「全米プロブレム・ギャンブリング評議会(NCPG)」が運営する相談サービスへの相談件数は、前年比で電話相談が43%、テキストメッセージによる相談が59%、チャットによる相談が84%増加したという。
スポーツに賭けることの罠
これでも十分に憂慮すべきデータだが、本誌の調べでは、相談件数はもっと急激なペースで増えている。
例えばバージニア州では、スポーツ賭博が合法化されて最初の1年間で電話相談件数が387%増加した。マサチューセッツ州では、20年以降に相談件数が276%増えている。オハイオ州はこの1月にスポーツ賭博が合法化されたばかりだが、最初の1カ月間に州の相談サービスに寄せられた電話相談件数は、前年同期の3倍に跳ね上がった。