プーチンの恥部を知っている男、ガバナンスが失われつつあるロシア 河東哲夫×小泉悠
THE DECISIVE SEASON AHEAD
今のロシアがそこまで行っているとは感じないものの、軍隊以外のさまざまな連中がなぜか自動小銃やロケット砲を持って戦い、1つの都市を落とそうとしている。しかも、軍隊の制服組と民間軍事会社を仕切っているプリゴジンは仲が悪い......。
やはりこれは近代国家の戦争ではないと思います。中世の戦争。領主1人につき従者は何人で、何日までは戦闘に従事せよ的な、帝国的な秩序の中での戦争です。
ただ、プーチンはこれで全部グダグダになって構わないというようなヤワな男ではなく、プリゴジンが成果を上げてドヤ顔をしだすと、抑えにかかる。最近はワグネルがロシア軍から砲弾を供給してもらえないとか、政治の中枢でもプーチンから遠ざけられつつあるとか、いろいろな話が飛び交っています。
軍にはっぱをかける材料としてプリゴジンは便利だったが、あまり調子に乗るなよ、というところもあるのでしょう。
かといって、プーチンは昔からの仲間を完全には切り捨てられない。それは温情ではなく、昔の彼の恥部をたくさん知っているからなんです。
プリゴジンに関して言うと、公式のストーリーでは刑務所から出た後にサンクトペテルブルクでホットドッグの屋台を始めて大成功したことになっています。ところが、10年前の(ロシアの独立系新聞)ノーバヤ・ガゼータを見ると、プリゴジンの本業はサンクトペテルブルクの闇カジノだった。
当時の闇カジノ撲滅委員長であったサンクトペテルブルク副市長のプーチンに取り入って、ウチのカジノだけはお目こぼしをしてくれというような関係を築いて、親しくなっていった......ということがその記事には書かれていた。
どこまで本当か分かりませんけど、サンクトペテルブルク副市長で、対外経済委員会や闇カジノ撲滅委員会の委員長だったプーチンが、当時相当な利権の上で悪いことをしたのは、周辺状況から明らかなわけです。
その時のことを知っている人たちというのは、遠ざけはしても完全にたたきつぶせないでしょう。でなければ、本当に口封じをするしかなくなってしまう。このプリゴジンとプーチンの変な共生関係というのは続くんじゃないでしょうか。
※この続きは、本誌2023年4月11日号「小泉悠×河東哲夫 ウクライナ戦争 超分析(第2弾)」特集に掲載されています。
小泉 悠(軍事評論家)
東京大学先端科学技術研究センター(グローバルセキュリティ・宗教分野)専任講師。著書に『ウクライナ戦争』、『「帝国」ロシアの地政学』など。
河東哲夫(本誌コラムニスト、元外交官)
外交アナリスト。ロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン「文明の万華鏡」主宰。著書に『日本がウクライナになる日』、『ロシアの興亡』、『遙かなる大地』(筆名・熊野洋)など。
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