最新記事
ウクライナ戦争

プーチンの恥部を知っている男、ガバナンスが失われつつあるロシア 河東哲夫×小泉悠

THE DECISIVE SEASON AHEAD

2023年4月4日(火)20時15分
小泉 悠(軍事評論家)、河東哲夫(本誌コラムニスト、元外交官)、ニューズウィーク日本版編集部
プリゴジン

ロシア軍が私兵団を使っているのが1つの特徴(写真はワグネルの創設者プリゴジン) CONCORD PRESS SERVICE-REUTERS

<ウクライナ戦争の特徴の1つは、ロシア軍が私兵団を使っていること。ロシア国内の事情に目を向けると......。日本有数のロシア通である2人が対談し、ウクライナ戦争を議論した>

※本誌2023年4月4日号「小泉悠×河東哲夫 ウクライナ戦争 超分析」特集に掲載した10ページに及ぶ対談記事より抜粋。4月4日には、対談の後編となる特集号(本誌2023年4月11日号)が発売された。対談は3月11日に東京で行われた。

※対談記事の抜粋第4回:注目すべき変化「ゼレンスキーが軍事に口出しし始めた」 小泉悠×河東哲夫 より続く。

――今回の戦争では、ロシア軍が私兵団を使っているのが1つの特徴です。エフゲニー・プリゴジンの民間軍事会社ワグネルしかり、チェチェン共和国の首長ラムザン・カディロフの民兵組織しかり。

■河東 ロシアではワグネルが有名ですが、アメリカの民間軍事会社では最近まで「モーツァルト(・グループ)」という会社がウクライナで活動していました。モーツァルトはもう「死んでしまった」(改組で改名した)のですが。

ロシアに話を戻すと、ほかにもいくつか民間軍事会社があります。カディロフもプーチンの信任の厚い男でチェチェンの兵士をウクライナにずいぶん送り込んでいますが、このカディロフが最近、首長を辞任したら自分も民間軍事会社をつくりたいと言ったんです。エネルギー関係の会社が私兵企業を立ち上げてもいる。

そういうのを見ていると、90年代の荒れに荒れたロシア情勢を思い出してしまう。あの頃は金持ちのオリガルヒ(新興財閥)たちがそれぞれ武装警備隊を抱えていて、車列で追い越し競争をし、負けたほうが後から追いかけていって殴り込むような、戦国時代みたいなことをやっていた。

私兵企業に注目しているのは、そういう混乱した状況がまた起きるのではないか、中央のガバナンスが失われた状況が現れつつあることの兆候ではないか、と思うからです。

ロシア人はいま経済的に若干困ってきて中国から個人でいろいろな物を仕入れてはインターネットで販売している。彼らは昔、個人で中国へ仕入れに行き、北京の街中でリヤカーを引いて安宿に戻り、ロシアに帰国しては販売していたのですが、それが今はインターネットで近代化されている。

また、最近は路上の露店──キオスクと言いますが──で、みすぼらしい金属製の店をまた復活させる動きも見られます。民間軍事会社と一緒で、ガバナンスが失われた状況が現れつつあるんじゃないか。

■小泉 本来は、暴力を独占できていることが近代国家の要件として非常に大きいはずです。90年代のロシアで、その暴力の独占がかなり崩れたというのは河東先生がおっしゃるとおりだし、それがもっと極端な形になったのが(同じ頃に内戦に陥った)ユーゴスラビアだったわけです。

あの時のユーゴスラビアの状況を見たイギリスの政治学者メアリー・カルドーは、「ここにおいて近代的な戦争ではない新しい戦争の形が起きている」ということを言いだした。

東京アメリカンクラブ
一夜だけ、会員制クラブの扉が開いた──東京アメリカンクラブ「バンケットショーケース」で出会う、理想のパーティー
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国10月指標、鉱工業生産・小売売上高が1年超ぶり

ビジネス

中国新築住宅価格、10月は-0.5% 1年ぶり大幅

ワールド

アマゾンとマイクロソフト、エヌビディアの対中輸出制

ワールド

米、台湾への戦闘機部品売却計画を承認 3.3億ドル
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中