ウクライナ避難民2000万の悲と哀──将来を見通せない人々...1年目の本音は
No Place Like Home
占領下で数週間過ごしたナタリアは、攻撃で破壊された民間車両を並べて盾にした「安全な」回廊を通って、ウクライナ軍の支配地域に家族で渡った。今はモルドバに避難している。ロシア軍から解放された村に帰りたいとは思うが、自宅は破壊されたので帰れる場所はない。
過去30年間で何百万もの避難民を出してきた数々の戦争の歴史を考えると、ナタリアのようにウクライナに戻りたいと願っている人々にとっての見通しは暗い。
ランド研究所のカルバートソンは、「個々の事例はさまざまな理由により異なる結果に至っている」とした上で、こう続けた。「しかしボスニア・ヘルツェゴビナやイラク、アフガニスタンやコソボ、シリアでの紛争を見ると、長期化した紛争が10年も続いた後に帰還できる難民の割合は、せいぜい30%程度だ」
ちなみに「長期化」とは、いつ終わるか分からないという意味だ。
国内であれ国外であれ、避難先から永久に戻れないウクライナ人の数がどれくらいになるかは、さまざまな要因に左右される。社会インフラの損傷、それを再建する政府の能力、帰還して経済活動を再開できる見通し、民族間の緊張(ずっとロシア語を使ってきたウクライナ人は今も肩身の狭い思いをしている)などだ。しかし、決定的なのは戦闘がいつまで続くかだ。
長期滞在に備える欧州
「過去の例を踏まえると、戦闘が6年以上続くと、その後に帰還する人の割合は極めて小さくなる」とカルバートソンは言う。「ウクライナ東部の破壊の度合いを考えると、今すぐ戦争が終わったとしても、一部の地域では地雷の撤去や電力・水道の復旧、住宅の再建や地域経済の立て直しに何年もかかるだろう」
そうであれば、とカルバートソンは予言する。「戦闘がどう終わるにせよ、一部の人にとっては帰還という選択肢のない日々が長く長く続く」
だから難民自身も受け入れ国の政府も、「仮に帰還の意思があっても大勢のウクライナ人が恒久的に欧州各国に住み続ける可能性」に備え始めるべきだと、カルバートソンは考える。実際、そうした準備は始まっているようだ。
数年前に大量のシリア難民が流入したときは各国で右翼民族主義者の反発が起きたが、ウクライナ人は今のところ、好意的に受け入れられている。
もちろん、支援の在り方は国によって異なる。ドイツでは「社会的に弱い立場」にあるウクライナ難民には一律、毎月451ユーロが支給されるが、ポーランドでは約63ユーロの一時金だけだ。それでも新天地で生活を再建しようとする人たちには一定のチャンスが与えられている。