インドネシア、クーデターから2年のミャンマーに将軍派遣へ 民主化への経験共有は可能か
ASEANの分断が深刻化
ASEANの対ミャンマー対応方針は2021年4月にジャカルタで開催されたASEAN緊急首脳会議でミン・アウン・フライン国軍司令官も出席して合意に達した「5項目の合意」が基本線となっていた。
しかしミャンマー軍政は「武力行使の即時停止」「全関係者とASEAN特使の面会」という2項目について拒否を続けている。
2022年の議長国だったカンボジアはフンセン首相が旗振り役となってミャンマー問題打開に積極的姿勢をみせ、自らヤンゴンを訪問してミン・アウン・フライン国軍司令官と会談するなどASEANによる和解調停の主導権を握り存在感を示そうとした。
だが、2022年7月にミャンマー軍政が政治犯4人の死刑をフンセン首相の中止要請にも関わらず執行したことでカンボジアもミャンマーに強硬姿勢を続けるマレーシアやインドネシア、シンガポール、フィリピンに同調せざるを得なくなった。
そして2022年10月のASEAN首脳会議からミン・アウン・フライン国軍司令官は招待されず、以降ミャンマー軍政関係者抜きのASEAN会議が続いている。2月3日からインドネシア・ジョグジャカルタで開かれるASEAN環境相会議にも軍政が選任した「環境相格」は招待されない事態となっている。
タイのスタンドプレー
こうしたASEANによるミャンマー問題の仲介工作が行き詰るなか、タイは12月22日にミャンマー軍政の「外相格」であるワナ・マウン・ルウィン氏をバンコクに招いて外相会談を開催した。しかし参加したのはタイ、カンボジア、ラオス、ベトナムの外相や外相級で対ミャンマーの姿勢が融和的な国やミャンマーの最大の後ろ盾である中国と極めて親しい関係の国に限定された。
インドネシアやマレーシア、シンガポール、フィリピンは招待されたものの参加を拒否した。その結果この会談は「ASEAN非公式外相会議」との位置づけとなった。
ミャンマーと同様にクーデターで実権を握ったプラユット首相(陸軍大将)が率いるタイ政府が開催した「非公式外相会」だが、ASEAN内部の分断を加速させる動きだとの警戒感が広がっているという。
今回のジョコ・ウィドド大統領の将軍派遣はタイのスタンドプレーを巻き返し、主導権を発揮する狙いもあるとみられているが、軍人同士の対話が事態打開の糸口となるかは不透明だ。
ジョコ・ウィドド大統領は事態打開の進展がなければ「断固として行動する」と明らかにしており、今後の議長国インドネシアによるASEANのかじ取りが注目されている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など