裁判所まである!中国の非合法「海外警察署」の実態を暴く
XI’S POLICE STATE–IN THE U.S.
帰国した弁護士は消息不明
「李の事件は異様だった。みんな怖がっている」と言うのは、ロサンゼルス在住で杭州出身の彫刻家・陳維明(チェン・ウエイミン)。
習近平を新型コロナウイルスに見立てた彫像を制作したせいで、彼自身も命を狙われたことがある。その像は何者かに火を放たれた。
米司法省は昨年3月、陳への嫌がらせを共謀した疑いで、中国政府の工作員とされる劉藩(リウ・ファン)とマシュー・ジブリスを起訴した。劉と中国にいるもう1人の男には、情報を引き出す目的で米連邦政府職員に賄賂を贈ろうとした容疑もある。FBIによると工作目的で310万ドルが香港から送金されていた。
作品を焼かれ、ドローンで監視され、車にGPS装置を仕掛けられた陳は、もう「どこにいても安心できない」と語る。
習政権が始動した2013年以降、中国の公安当局の国外活動は活発化している。
例えば「天網作戦」は、中国人民に対するオンライン詐欺や、その他の犯罪に手を染めていると疑われる国外在住中国人を標的にしている。「狐狩り作戦」は、国外に逃亡した汚職高官を帰国させ、裁くことが目的だ。中国側の発表では、既に数千人が「説得されて」帰国している。
「共産党は、標的とする人物に帰国を強制するために本人を脅したり、中国にいる家族を通じて間接的に圧力をかけたりしている」と語るのは、政治亡命の案件に詳しいロンドンの法律家ホアン・ホアだ。
ホアンは昨年、ある人権派弁護士がイギリスに亡命するのを助けようとした。だが家族や故郷の山東省済南市の警察から数カ月にわたって圧力をかけられ、彼はホアンの忠告を聞かずに帰国した。
「警察からはあらゆる面での好待遇を約束されていた」が、帰国した弁護士は消息を絶った。その後、ホアンも現地の警察から電話やメールで脅迫を受けたという。
イギリスの国内安全保障・テロ対策を統括するMI5(英国情報部5部)のケン・マッカラム長官は昨年11月、中国当局が在外中国人への圧力を強めていると警告した。
犯罪の容疑者だけでなく、共産党に公然と異議を唱える人々への露骨な脅しもある。習近平への権力集中が進めば進むほど、こうした脅迫はひどくなるとマッカラムは予測する。
アメリカでは、中国からの移住者が出身地別の商工会議所や「同郷会」を通じて、共産党と密接に連携しているケースがある。
本誌の調査によると、警察の窓口や中国で起きた事件を裁く代理法廷や、中国の地方政府との連絡窓口として、堂々と機能しているところもある。