裁判所まである!中国の非合法「海外警察署」の実態を暴く

XI’S POLICE STATE–IN THE U.S.

2023年1月28日(土)16時20分
ディディ・キルステン・タトロウ(本誌米国版・国際問題担当)

とはいえ、アメリカ在住の中国系移民約500万人の多くは、どの移住者団体にも属しておらず、その行動を必ずしも支持していない。全ての同郷会が党の中央統一戦線工作部とつながっているわけでもない。

だが共産党にとっての統一戦線の重要性は、11月に習の右腕である丁薛祥(ティン・シュエシアン)が「国内外の中国の息子や娘」は「統一戦線」に参加し、党が「敵を克服し」「国を治める」ことに協力するよう呼びかけたことからも明らかだ。

表向き、同郷会はビジネスチャンスを提供したり、旧正月にお祝いをしたりする地域団体にすぎない。しかし、中央政府の公安省や地方の公安庁を通じて統一戦線工作部と密接に連携しているのは明白な事実だ。

本誌が中国側の公式発表や報道を調べた限りでも、アメリカその他の国から中国に出張し、その業務について協議したり、時には国外での功績に対して報酬を受け取ったりする同郷会幹部らの姿がうかがわれる。

共産党との密接なつながりが疑われる人物としては、例えばニューヨーク在住でホテル経営者の安全忠(アン・チュアンチョン)がいる。

彼は昨年10月、中国人の帰国を強要する計画を立てたとして起訴されている。安はニューヨークの山東同郷会の前会長で、現在は名誉会長だ。

「代理法廷」も9カ所に

人権団体セーフガード・ディフェンダーズが昨年9月に発表した「中国の在外警察の暴走」と題する報告書は、中国がニューヨークを含む数十カ所に非合法の「警察署」を設置している事実を暴き、世界中に衝撃を与えた。

しかし本誌は、同様ないし類似の役割を果たす代理法廷のような施設がニューヨークに6カ所、ロサンゼルスに2カ所、サンフランシスコに1カ所あることを確認した。いずれも、中国の警察や裁判所の報告書、国営メディアや華僑系メディアによる記述、裁判所のウェブサイトを徹底的に検索して特定したものだ。

そうした施設は戸籍や運転免許証などの書類の更新や、中国の病院との遠距離健康診断などのサービスを提供していると自称している。

またニューヨーク温州商工会議所のように、「行方不明」になっている人を捜し出し、裁判に必要な書類を提出することもあるという。

米国務省も、中国が主権の及ばぬ外国で事実上の警察活動をしているという報道は承知している。

ある報道官は匿名を条件に、「事態を深刻に受け止めており、国境を越えた中国政府の弾圧には引き続き注意を払っていく。この問題については同盟諸国やパートナーとも調整している」と述べた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中