裁判所まである!中国の非合法「海外警察署」の実態を暴く

XI’S POLICE STATE–IN THE U.S.

2023年1月28日(土)16時20分
ディディ・キルステン・タトロウ(本誌米国版・国際問題担当)

多くの移民を海外に送り出している福建省に、長楽という町がある。その名を冠した「米国長楽協会(美国長楽公会)」が注目を集めたのは昨年のこと。ここの会員が「在外警察署」という横断幕を掲げている写真を、セーフガード・ディフェンダーズの報告書が掲載したからだ。

本誌はその所在地、マンハッタンのチャイナタウンにある「ロイヤルイーストプラザ」なる建物を訪れた。住所はイーストブロードウェイ107番地。1階は蘭州ラーメン店、2階は会計事務所、3階は鍼灸クリニックで、米国長楽協会は3A階にあった(要するに4階なのだが、日本や中国では4という数字が不吉なものとされている)。

中にいた男性2人は、ここは中国警察の施設ではないと主張した。

「私たちが主に手伝っているのは(在留中国人の)免許証などの更新」であり、「新型コロナウイルスの感染が広がってからは、みんな簡単には帰国できないからだ」と話した。2人とも名前は明かさなかった。

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米国長楽協会が入居しているニューヨーク・マンハッタンにあるガラス張りの建物 DEIRDRE KIRSTEN TATLOW

だが実際には、ここに警察よりも先に裁判所の出先機関が設けられていた。

ニューヨークの中国語メディアを調べてみると、米国長楽協会の盧建順(ルー・チエンシュン)会長は昨年9月の設立24周年パーティーで、福建省長楽の裁判所の便宜を図るため、2020年に協会内に「長楽華僑紛争調停センター」を立ち上げたと述べていた。

人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの王松蓮(ワン・ソンリエン)は言う。

「中国と深く結び付けば付くほど、操り人形のように、報酬と懲罰の見えない糸で遠隔操作されてしまう。国外の『警察署』は、そんな見えない糸の1つであり、それがある国の政府は気付いていないか黙認している。だから、みんな怖がっている」

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