インドネシア、収賄容疑で知事逮捕に支持者ら暴徒化 催涙弾で応じる警察と市街戦
ルーカス知事はタビ・バングン・パプア開発会社のリジャントノ・ラッカ社長からインフラ整備事業に関連して多額の賄賂を受け取っていた。その額は事業の総契約額の14%が相場だったといわれている。
ラッカ氏が受け負った事業は道路の改良工事、環境管理センター、幼児教育サポートセンターなどで総事業費は約410億ルピアになるとされている。少なくとも10億ルピアをルーカス知事に渡した贈賄側のリジャントノ氏もKPKから汚職事件の容疑者に指定され、現在拘留中という。
ルーカス知事は受け取った賄賂をシンガポールやオーストラリアなど海外のカジノでの遊興費に使っていたとみられている。
しかしルーカス知事は健康状態を理由に何度もKPKの召喚には応じてこなかった。
このためKPKは2022年11月3日に捜査官をパプア州都ジャヤプラに派遣、ルーカス知事と面会して健康状態を確認した。この時も知事は体調の不良を訴えてKPK捜査官との面会はわずか15分で中断された。
しかしその後ルーカス知事は複数の公務を公の場所でこなしており、12月30日には州政府事務所の発足記念式典に参加するなどしていたため病気が仮病でないかとの疑いが強まっていた。
支持者らの抗議で逮捕に5年越し
今回KPKでは逮捕に先立ち関係者や証人65を聴取して収賄の容疑を固めて逮捕に踏み切ったという。
ただルーカス知事の弁護士は知事が腎臓、肺の病気と脳卒中の危険性があることなどを挙げてシンガポールの医療機関での治療が必要と主張している。これに対しKPKは引き続きルーカス知事の健康状態には最新の注意を払うと強調している。
ルーカス知事は2017年にも奨学金流用疑惑でKPKから捜査を受けたことがある。この時は事件の証人に指定されたが、逮捕までに至らなかった。背景には再選を目指す州知事選が2018年に迫っており、支持者らが「KPKの捜査は政治的動機に基づく弾圧だ」と抗議運動を展開したことも影響しているといわれていた。
ジョコ・ウィドド大統領はこうしたルーカス知事へのKPKの捜査に関して「法の前に荷は全ての人は平等である」として支持を表明している。
インドネシアでは1998年に崩壊したスハルト長期独裁政権下で蔓延していた「汚職・腐敗・親族主義(KKN)」の残滓が民主化後も色濃く社会に存在し、KPKによる懸命の汚職捜査にも関わらず、閣僚や国会議員、州知事、裁判官、外交官などの収賄事件が後を絶たない状況が続いている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など