「同性愛では繁殖せず人類は滅亡する」 イスラム保守派の反対で米LGBTQ特使の訪問キャンセルに
同性愛者は公開でむち打ち刑に処されるインドネシア・アチェ州のLGBTQ支持者によるデモ Antara Foto Agency - REUTERS
<世界最多のイスラム教徒を擁する国は、LGBTQの権利問題を協議する特使を門前払い>
在インドネシアの米大使館は12月2日、性的マイノリティであるLGBTQの権利などについて協議する米国の特使ジェシカ・スターンさんのジャカルタ訪問日程がキャンセルされたことを明らかにした。
スターン特使は11月28日にフィリピンを訪問し政府関係者や民間の人権団体などとLGBTQの人々に関する権利擁護などについて意見を交換。その後ベトナムを訪問し12月7日にインドネシアを訪れて関係者と同様の協議を行う予定だった。
ところが12月1日にインドネシアで最も権威があるとされる「インドネシア・ウラマ(イスラム教指導者)協会(MUI)」がスターン特使のインドネシア訪問に反対を表明。これを受けて事態が急転、このままでは特使の訪問中に不測の事態発生もありうるとの判断から米側が訪問キャンセルを判断したものとみられている。
同性愛は繁殖せず人類は滅亡する
MUIはスターン特使のインドネシア訪問に関して「私たちの国の文化的及び宗教的価値観を損なうことを計画している」と批判。断固受け入れられないとの立場を表明した。
MUIは複数あるインドネシアのイスラム教団体で最も権威のある組織とされ、現職のマアルフ・アミン副大統領はMUI議長経験者でもあり、誰も異論を唱えることが難しいという状況がある。
MUIのアンワル・アッバス副議長はメディアに対して「同性愛行為は危険である」としたうえで「この行動が容認されれば男性と男性、女性と女性との結婚となり、それは繁殖することがない。ひいては人類の滅亡に繋がる可能性がある」とまで述べて同性愛、LGBTQに反対の立場を強調した。
日本でも自民党議員の女性政務官が「LGBTは生産性がない」と発言し、謝罪と発言撤回に追い込まれているが、インドネシアではそうした批判は全く起きていないのが現状だ。
非イスラム教国だがイスラム強国
インドネシアは世界第4位の人口約2億6000万人のうち約88%がイスラム教徒である。世界最多のイスラム教徒人口を擁する国だが、イスラム教を国教とするいわゆるイスラム教国とは一線を画し、イスラム教以外にキリスト教、ヒンズー教、仏教、儒教の信仰も憲法で保障されている「多様性国家」である。
しかし実際には圧倒的多数を占めるイスラム教の教義、規範、習慣などが政治、経済、社会、文化のあらゆる側面で優先され、それへの異論や反論そして議論すら、ときには暴力を以って封じ込められるのが実態である。
スマトラ島最北部のアチェ州だけは例外的にイスラム法の適用が容認され、同性愛者は公開でむち打ち刑に処される。また外国人を含め女性は頭部を覆うヒジャブの着用が求められる特別な地域である。