「同性愛では繁殖せず人類は滅亡する」 イスラム保守派の反対で米LGBTQ特使の訪問キャンセルに
その他の州でもLGBTQに関してはイスラム教が同性愛を禁じていることもあり、同性愛者の集会、パーティー、討論会などにはイスラム強硬派と称する集団が押し掛けて妨害するほか、警察も取り締りの対象として介入するのが常である。
警察の言い分は「麻薬を使用しているとの情報があったための手入れである」というのが常套句となっている。
女装した男性に消防の放水ホースで水を浴びせたり、男らしい大きな声での返事を強要したりして、従わない場合には暴力に訴えることもしばしばニュースになるのがインドネシアである。
建前と本音使い分けるイスラム教徒
ジョコ・ウィドド大統領は宗教関係、それもイスラム教が関連した事案が大きく報道されるたびに国是である「多様性の中の統一」「寛容性」を強調して国民に自制と和解を訴えるのが「恒例」となっている。
しかし今年5月には首都ジャカルタ中心部にある英国大使館がLGBTQの権利擁護と支持を象徴する「レインボーフラッグ」を掲揚したところ、イスラム教徒らが猛烈な抗議活動を展開し、外務省も英大使館幹部を呼びだして遺憾の意を伝える事態も起きている。
このほか地元メディアの報道などによると同性愛を禁じている国軍内で不適切行為に及んだ同性愛者の兵士2人が摘発され、7カ月の懲役刑に処せられると同時に軍から追放する事件があったという。
インドネシア外務省はスターン特使の訪問に関しては「日程の詳細を把握していない」とし同性愛に関してはコメントを拒否しているという。
このように政府機関や治安組織に関してもジョコ・ウィドド大統領が力説する「多様性や寛容」が浸透していないのが実状だ。
一部にはLGBTQの権利擁護には理解を示す職員も存在するものの、多数を占めるイスラム教徒の脅威に直面して「沈黙や黙認、知らんぷりするしかない」と心情を吐露する人々も少数ながら確実に存在している。
「同性愛は危険」「人類を滅亡に導く」などの妄言を堂々と披歴するイスラム教徒にこそスターン特使との協議が必要なのではないだろうか。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など