インドネシア、G20警備強化に伴う「弾圧」 環境会議、自転車デモなど次々中止へ
環境関連の各種イベントに中止圧力
そうしたなか、11月5日にバリ島のあるバリ州の州都デンパサールで開催される予定だった「バリ島での望ましき環境プラットフォームと青少年の芸術」と題する公開討論会が中止に追い込まれたという。
主催者は「討論会はキャンセルせざるを得なかった。わかる人にはその理由がわかるでしょう」として暗に当局からの圧力の存在を示した。
またジャワ島からバリ島に向けて自転車によるサイクルツアーを行っていた環境団体「グリーンピース・インドネシア」の「影を追いかける」運動のグループは、東ジャワ州プロボリンゴを通過する際に地方行政組織の代表を名乗る人物から「ツアーを中止するよう」に脅迫を受けたという。
ツアー一行はそれまでも自転車のタイヤを刃物などでパンクさせられるなどの嫌がらせを受けていたが、今回は「ツアー中止の誓約書」への署名を強要され、11月8日にバリまでのツアー続行を断念したという。
さらに中部ジャワ州のスマランで地元ラジオ局が気候監視機関による番組を放送中、警察関係者を自称する男性7人が放送局に押し掛けて番組を中断させるという事態も発生している。
このほか環境問題関連団体のホームページがサイバー攻撃を受けたり、環境活動家の携帯電話が一時通話不能に陥ったりするなどの不穏な事案も報告されている。
プロボリンゴや東ジャワ州の地方行政当局は「我々に環境運動を妨害したり中止させたりする権限は与えられていない」と関与を全面的に否定しており、警察当局がG20を前にして「群衆が集まる事態の阻止」を組織的に実施しており、その影響である可能性が高いとみられている。
この警察当局によるとみられる規制は11月6日に開始されG20終了後の同月18日まで継続されるという。
ジョコ・ウィドド政府の二枚舌
「一般の参加を含めた幅広い活動を歓迎する」としながら一方でG20の主要議題の一つとされる「気候変動問題」に関連した公開討論会を中止させ、サイクルツアーを脅迫して中止に追い込み、ラジオの番組を途中でやめさせるなどの一連の行為は「政府の環境問題への取り組みが表面的で真剣でないことを示す二枚舌である」と環境団体や人権団体は一斉に批判を浴びせている。
インドネシアの人権団体「行方不明者と暴力犠牲者の為の委員会(コムナス・ハム)」はこうした政府、治安当局の動きに関して「インドネシアの民主主義が衰退する中で権威主義の台頭を証明していると言える。自国民の環境問題への主張より海外の環境投資などを優先した結果を示していると信じる」と民主主義の危機であるとの認識を示している。
インドネシアのルトノ・マルスディ外相は一部メディアとのインタビューで、今回のG20を「史上最も困難な会議」と表現してウクライナ問題などを指摘している。これは会議終了後に「その最も困難なG20を無事に終了させた」としてインドネシアの成果を内外にアピールするための布石に過ぎないとの見方が有力視されている。
そんなことよりG20で浮かれる政府や内外のマスコミの影で、"治安当局の言論封殺"に着目することの重要性をテンポの今回の報道は伝えているといえるだろう。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など