最新記事

東南アジア

ASEAN、ミャンマー問題めぐり立場の違い浮き彫りに 首脳会議へ民主派勢力の参加求める声も

2022年10月28日(金)19時00分
大塚智彦

こうしてASEANのミャンマー問題介入は完全に膠着状態に陥っているなか、今年のASEAN議長国であるカンボジアのフンセン首相やプラク・ソコン外相が複数回ミャンマーを訪問してはミン・アウン・フライン国軍司令官ら軍政側と直談判をして「5項目の合意の履行」を説得していた。

ASEAN加盟国中もっとも親中派であるカンボジアは、ミャンマー軍政の最大の後ろ盾でもある中国への配慮から「ASEANの会議には軍政代表も参加させて話し合いの中で打開策を見出す」との融和的姿勢を取り続けてマレーシアらとの乖離が浮き彫りになっていた。

「5項目の合意」が足かせに

ところが今年6月以降、ミャンマー軍政は民主活動家の政治犯の死刑執行を断行したり、学校施設を攻撃して生徒・教師多数を死傷させたり、少数民族武装勢力の音楽イベント会場を空爆して多数を殺害するなど、人権侵害や暴力をエスカレート。こうした事態にカンボジアとしても「ASEANの一連の会議から軍政を締め出す」ことに渋々同意せざるを得なくなったという。

その結果今回の外相会議にもミャンマーは招待されず欠席となった。

ASEAN内部には「5項目の合意」を前面に掲げての交渉はすでに限界に達しており、むしろ「足かせ」になっているとして「合意履行への期限設定」を行うべきとの意見が今回の外相会議では協議されたという。

しかしマレーシアなどが強硬に主張している「軍政のASEANからの追放」に関しては「あくまで現在の枠組のなかで対応する」との姿勢の維持で意見が一致したという。

だが「5項目の合意の履行に期限を設定」しても、ミャンマー軍政が無視した場合の次なるカードが明確になっている訳ではなく、ASEANの仲介・和解の長期的シナリオは具体像がまったく見えない状況となっている。

今回の外相会議は11月にカンボジアで予定されているASEAN首脳会議への準備という位置づけだった。その首脳会議でもミャンマー軍政の代表を招待しない方針だが、マレーシアが主張する民主派勢力である「国家統一政府(NUG)」の代表を「ミャンマーの首脳格」として招待するか、もしくはオブザーバーとして参加を認めるかをめぐり、ASEANの各国外務当局などが現在、水面下で厳しい交渉を続けている。首脳会議でも引き続きミャンマー問題が主要議題となる見通しだ。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請6000件減、労働市場の安定継続

ビジネス

NY外為市場・午前=ドル/円6カ月ぶり安値、関税措

ワールド

トランプ氏、広範な関税措置を「撤回しない」=商務長

ビジネス

米ISM非製造業総合指数、3月50.8に低下 9カ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡眠の「正しい関係」【最新研究】
  • 2
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のために持ち込んだ?
  • 3
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    得意げに発表した相互関税はトランプのオウンゴール…
  • 6
    「ネイティブ並み」は目指す必要なし? グローバル…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中