ASEAN、ミャンマー問題めぐり立場の違い浮き彫りに 首脳会議へ民主派勢力の参加求める声も
こうしてASEANのミャンマー問題介入は完全に膠着状態に陥っているなか、今年のASEAN議長国であるカンボジアのフンセン首相やプラク・ソコン外相が複数回ミャンマーを訪問してはミン・アウン・フライン国軍司令官ら軍政側と直談判をして「5項目の合意の履行」を説得していた。
ASEAN加盟国中もっとも親中派であるカンボジアは、ミャンマー軍政の最大の後ろ盾でもある中国への配慮から「ASEANの会議には軍政代表も参加させて話し合いの中で打開策を見出す」との融和的姿勢を取り続けてマレーシアらとの乖離が浮き彫りになっていた。
「5項目の合意」が足かせに
ところが今年6月以降、ミャンマー軍政は民主活動家の政治犯の死刑執行を断行したり、学校施設を攻撃して生徒・教師多数を死傷させたり、少数民族武装勢力の音楽イベント会場を空爆して多数を殺害するなど、人権侵害や暴力をエスカレート。こうした事態にカンボジアとしても「ASEANの一連の会議から軍政を締め出す」ことに渋々同意せざるを得なくなったという。
その結果今回の外相会議にもミャンマーは招待されず欠席となった。
ASEAN内部には「5項目の合意」を前面に掲げての交渉はすでに限界に達しており、むしろ「足かせ」になっているとして「合意履行への期限設定」を行うべきとの意見が今回の外相会議では協議されたという。
しかしマレーシアなどが強硬に主張している「軍政のASEANからの追放」に関しては「あくまで現在の枠組のなかで対応する」との姿勢の維持で意見が一致したという。
だが「5項目の合意の履行に期限を設定」しても、ミャンマー軍政が無視した場合の次なるカードが明確になっている訳ではなく、ASEANの仲介・和解の長期的シナリオは具体像がまったく見えない状況となっている。
今回の外相会議は11月にカンボジアで予定されているASEAN首脳会議への準備という位置づけだった。その首脳会議でもミャンマー軍政の代表を招待しない方針だが、マレーシアが主張する民主派勢力である「国家統一政府(NUG)」の代表を「ミャンマーの首脳格」として招待するか、もしくはオブザーバーとして参加を認めるかをめぐり、ASEANの各国外務当局などが現在、水面下で厳しい交渉を続けている。首脳会議でも引き続きミャンマー問題が主要議題となる見通しだ。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など