ミャンマー軍政がコンサート会場空爆、60人死亡 少数民族武装勢力の支配地域で
各地では戦闘機やヘリによる地上攻撃や砲撃をまず実施して、その後に兵士がトラックや輸送車両で進軍するという戦法が多用されていると抵抗勢力はみている。
今年8月11日には北西部ザガイン地方域インマビン郡区インバウンテン村で兵士が16歳の少女と20歳の女性2人を集団レイプしてその後殺害、全裸の遺体を崖に放置する事件が起きた。崖の上には多数の兵士の足跡が残されていたという。
この時もまず軍のヘリコプターが住民を追い立てて逃げ遅れた少女らの前に兵士約60人がヘリコプターから降下し、身柄を拘束してその後集団でレイプしたとみられている。
軍政は治安維持に焦燥感
こうした軍政の戦術の変化の背景には2021年2月のクーデターからすでに1年半以上が経過した現在も軍政の意図した治安の安定が全く実現せず、全土で軍とPDFや少数民族武装組織による戦闘が続いていることへの焦りがミン・アウン・フライン国軍司令官以下軍政幹部に蔓延しているとの見方が有力となっている。
最近は各地でPDFとの関係を疑った民間人の斬首そして晒し首や女性に対するレイプ後の殺害、さらに高齢者などを民家に押し込んで生きたまま焼殺するなどの残虐な人権侵害事案が各地で報告されている。
これも軍政側が思い通りに進まない状況への不満と焦燥感の表れとみられ、今後もさらに事態は悪化することが懸念されている。
後ろ盾の中国に戦闘機発注
こうした空軍による攻撃強化のためか、独立系メディア「イラワジ」は10月18日に「軍政が中国にFTC2000G戦闘機発注」と報じた。
発注の具体的な時期や機数などは明らかになっていないものの、今年6月にミャンマー空軍のパイロットや技術者、将校クラスが雲南省昆明経由で中国に渡航したとも伝えており、FTC2000G戦闘機導入はすでに具体的に動き出しているものとみられている。
さらに「イラワジ」は導入した戦闘機は北東部シャン州の空軍基地へ配備が検討されているとも報じている。シャン州は今回音楽コンサート会場が空爆されたカチン州の南に隣接し、PDFの活動で軍の苦戦が伝えられるザガイン地方域の南東にも隣接しており、戦略的な空軍基地への配備が実現すれば反軍勢力には新たな脅威となるとみられている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など