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ウクライナ戦争

「ロシア敗北」という現実が近づく今こそ、アメリカが思い出すべき過去の苦い失敗

America’s Conundrum

2022年10月5日(水)17時07分
スティーブン・ウォルト(国際政治学者、ハーバード大学ケネディ行政大学院教授)

対峙する中国との力関係は変わらない

ウクライナ戦争の勝利(まだ仮定の話だ、念のため)は、ソ連の崩壊ほど歴史的な瞬間にはなるまい。それでアメリカの一極支配が再現されるわけでもない。当時と違って今は中国がアメリカの対極に位置しており、ウクライナ戦争の帰趨でその力関係が変わるわけではないからだ。

たとえウクライナで勝っても、米国内の政治的分断による機能不全は解消されない。むしろ、外圧が減る分だけ国内の亀裂は深まるだろう。ロシアに勝ったからといって、この複雑多様な世界にあって各国の政治を管理し、あるいは指図する権限がアメリカに付与されるわけでもない。

そもそも、ウクライナ戦争が西側の勝利に終わっても、各国が取り組むべき外交上の課題は何一つ変わらない。つまり①破滅的な気候変動を回避し、既に顕在化した深刻な影響に対処する、②中国とは距離を置きつつも関与を続ける、③イランには核兵器を持たせない、④失速気味の世界経済を浮上させる、そして⑤次なるパンデミックの襲来に備えなければいけない。

いずれも死活的に重要な課題だ。まずは明確な優先順位を決め、(西側の価値観を押し付けるような)無謀な冒険に乗り出さないこと。ウクライナの人々が勝利の美酒に酔いしれ、好戦的になるのは避け難い。しかし彼らにつられて、私たちが過去の過ちを繰り返す事態だけは何としても避けたい。

From Foreign Policy Magazine

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