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習近平の統治下で「中国は弱体化した」、なぜ続投が可能なのか

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2022年10月22日(土)14時25分
練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者)

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習は権力闘争を闘い続けた。衝突の絶えないライバルの李 THOMAS PETER-REUTERS

反汚職運動で政敵を粛清

なぜ習と李克強はうまくいかないのか。従来は、李は鄧小平派で市場部門を重視し、習は毛沢東派で国家部門を重視すると言われてきた。イデオロギーの対立が権力闘争の原因になっている、というわけだ。

しかし、現実は異なる。

1985年、30年にわたる社会主義経済の大混乱の後、鄧小平は「先に豊かになれる地域や人々から豊かになればいい」という「先富論」を提唱した。利口な役人はそれに応え、公職を離れて、国家資源をせしめ、会社を設立して裕福になった。

彼らの政治的な所属は、1989年に鄧に抜擢されて2002年まで総書記を務めた江沢民(チアン・ツォーミン)の派閥だ。

江は2016年頃に、李克強、胡錦濤(フー・チンタオ)、温家宝(ウエン・チアパオ、2002~2012年に総書記を務めた胡の下で温が首相を務めた)らの「中国共産主義青年団(共青団)」に接近した。

習は江派と共青団派のおかげで党のトップに立った。しかし、政権を握ると反腐敗運動を展開し、軍の指揮系統や国家安全部の江派を粛清した。さらに2016年頃からは、共青団派の粛清も始めた。

そこで江派と共青団派が手を組んだのだが、2012年以前は敵同士だったため、あまり緊密な関係にはならなかったと思われる。いわば、習の「共通の犠牲者」による緩やかな連合だ。

習の共青団派に対する敵意と江派に対する敵意は、やや性質が異なる。

共青団派は胡・温時代を通じて党と政府の幹部に広く人材を配置しており、習にとっての脅威は人事面での対立が大きかった。習は2016年に共青団出身の幹部、令計画(リン・チーホア)を粛清した。令は胡の元側近で、これは胡への個人的な警告でもあった。

一方で、江派に対しては、派閥の忠誠心を維持するために重要な経済資源の支配権をめぐる争いのほうが大きかった。江派きっての実業家で不動産王の任志強(レン・チーチアン)は、2020年に汚職などの罪で禁錮18年を言い渡された。

とはいえ、収賄罪などに問われていた元公安次官の孫力軍(スン・リーチュン)が今年9月に執行猶予付きの死刑判決を言い渡されたように、一部の人事抗争は依然として重要な意味を持つ。

孫が率いていた政法系統(情報、公安、司法、検察などの部門を管轄する党中央政法委員会)は江派が牛耳っていたが、習は党内の序列において、党中央政法委員会のトップである書記の地位を格下げした。

江・共青団派は23年間にわたって実権を握り、市場部門の富を支配してきた。市場部門からの多額の賄賂は、彼ら連合の忠誠心を高める。

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