金正恩の危ない「戦術核」遊戯...核搭載の短距離ミサイル配備が意味すること
North Korea’s Dangerous Turn
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4月、「新型戦術誘導兵器」の発射実験を視察する金正恩 KCNAーREUTERS
<北朝鮮が核兵器搭載の短距離ミサイル配備に舵を切れば、朝鮮半島の「有事」と「核抑止力」の意味が変わる>
2021年1月、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記は自国と世界に向けて兵器開発の5カ年計画を発表した。核抑止力の近代化に関する壮大で野心的な計画には、これまで公に語られなかった戦術核兵器も含まれていた。
北朝鮮が戦術核兵器を開発して最終的に配備することは、朝鮮半島の平和と安全にとって、アメリカ本土を射程内に収めるICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発に成功して以来の深刻なマイナス要因になるだろう。核のエスカレーションのリスクが高くなり、核事故の可能性がはるかに大きくなって、米韓同盟への圧力もいっそう高まる。
戦術核兵器には、普遍的な定義がない。核を使う時点で兵器の「戦術的」な配備とは言えなくなるという議論があり、核兵器の使用はあらゆる場所で「戦略的」な意味を持つという考え方もある。とはいえ、戦術核には一般的な特徴が3つある。
第1の特徴は、核爆発の規模を意図的に小さくしていることだ。「戦術的」とされる核兵器の中には、1945年にアメリカが広島と長崎に投下した原子爆弾が放出したエネルギー量にかなり近いものもあるが、核出力としては、(北朝鮮が保有する核兵器も含めて)現在の核兵器の中で著しく破壊的なものに比べると、相対的に小さいと言える。
戦術核の第2と第3の特徴は、北朝鮮の核開発が分かりやすく説明している。第2の特徴は、比較的短距離の射程で目標に到達することだ。北朝鮮は今年4月に戦術核の実戦配備を想定したとみられる短距離ミサイルの発射実験に成功したと発表。その飛行距離は約110キロだった。
「斬首作戦」に対抗措置
第3の特徴は、戦術核兵器を保有する国が、その使用権限をハイレベルの政治指導者から、比較的低いレベルの軍司令官に委譲しようとする傾向があることだ。
北朝鮮では現在、核兵器使用の命令を下すことができるのは金正恩だけだ。その権限を委譲することは、朝鮮人民軍の一部に対して金の権力が希薄化する恐れがある。
しかし、抑止力の論理からは、権限の委譲は魅力的かもしれない。韓国は16年以降、北朝鮮の核使用を想定した作戦とはいえ、朝鮮半島有事の際に金を殺害する「斬首作戦」とその能力を保持していることを隠そうとしていない。
実際、北朝鮮では権限委譲の方向に動いているのではないかという気配がある。今年6月に金は朝鮮労働党中央軍事委員会拡大会議に出席。戦術核兵器についても議論されたとみられる。