「停滞した田舎のお荷物」──ジョンソンの暴言の置き土産「保守党問題」
Johnson’s Toxic Legacy
ジョンソンへの反感が高まるほど、独立を求める声は強くなっていった。スコットランドで20年6月から21年1月までに行われた世論調査では、19回連続で独立支持が50%を超えた。また、21年5月の地方選挙でSNPとスコットランド緑の党の連立与党が勝利し、14年連続で民族政党が与党となった。
とはいえ、スコットランドのアンチ保守党感情は、ジョンソンから始まったわけではない。その根底には、1970年代末に始まったマーガレット・サッチャー首相の時代に味わった苦い経験がある。
例えば、サッチャー政権が強行した悪名高い人頭税は、まずスコットランドで導入された。サッチャリズムの看板である規制緩和や金融引き締めも、スコットランドに大打撃を与えた。その一方で、サッチャーは地方の自治権要求の声に耳を貸さなかった。ようやくスコットランドが自治権を獲得したのは、サッチャー時代が終わった後の97年だ。
首相就任当初のジョンソンは、「イギリスを平準化する」として、地域活性化投資を積極的に進めた。なにしろ男性の平均寿命だけ見ても、スコットランドの最大都市グラスゴーでは73歳で、ロンドン郊外のチルターンズでは83歳と、10歳もの差がある。ジョンソンはこうした地域間の豊かさの格差を縮小しようとした。
だが、そもそもこうした格差が生じたのは、サッチャー以降の保守党政権が、イングランド北部やウェールズやスコットランド中部の工業を犠牲にして、ロンドンの金融業界の成長を優先してきた結果だ。ジョンソンの平準化キャンペーンも、他の領域で危機が大きくなると、いつの間にか勢いを失っていった。
歴史的過ちへの反省なし
むしろブレグジットによって、ジョンソンは中央集権的な傾向を強めたように見える。保守党主導の議会は2020年、EUから重要な規制権限を取り戻す国内市場法案を可決した。その権限はさらにスコットランド、ウェールズ、北アイルランドの議会まで戻されるべきだったが、ロンドン止まりだった。SNPはこれを「権力の横取り」だと厳しく批判した。
保守党の新しい党首候補であるスナクとトラスは、どちらもジョンソン政権の閣僚を務めた人物であり、保守党のスコットランドとの関わり方を変えそうには見えない。既に2人とも、スコットランドの独立を問う住民投票の再実施を首相として承認するつもりはないと述べている。
サッチャーのように自己顕示欲の強い職業政治家トラスと、元金融マンで党内屈指の資産家であるスナクは、スコットランド問題にほとんど関心を示していない。彼らの口から出てくるのは、従来の党の立場に沿った言葉ばかりだ。