ミャンマー民主派抵抗政府が武器供与を訴え ASEANへの承認要望も
このためNUGとしては「軍政代表がいない会議であればこそ我々NUG代表の参加を認めてほしい」としているが実現の見通しは暗い。
2021年2月1日のクーデターを受けて同年4月16日に樹立されたNUGは発足直後から「ミャンマーを代表する政権は軍政ではなくNUGである」として内外にアピールしているが、ASEAN内では意思統一ができずNUGにコンタクトしているのはマレーシアだけといわれている。
議長国カンボジアの思惑
ASEAN加盟国間ではミャンマー問題に関する温度差が存在するのも事実で、これが問題解決への道筋をつける「障害」になっているとNUGなどは指摘している。
クーデター後からミャンマー軍政に厳しい姿勢をとっているのはマレーシアとシンガポールだけに過ぎず、残る加盟国は「是々非々」というような曖昧な姿勢に終始している。
今年のASEAN議長国であるカンボジアはフンセン首相やASEAN特使であるカンボジアのプラク・ソコン外相らが何度もミャンマーを訪問しミン・アウン・フライン国軍司令官ら軍政幹部と会談しているが、実質的な事態の進展はないのが現状である。
カンボジアは議長国としての成果を追及してASEAN内での存在感を誇示しようとするばかりで、そのいい例が2022年6月にカンボジアで開催されたASEAN国防相会議にミャンマー軍政代表を招いたことだろう。ミャンマーを疎外させない方針で臨んだものの、他の加盟国からはコンセンサスを得ていないと反発を買ったのだった。
フンセン首相は「スタンドプレー」が好きだが、こうしたミャンマーを内に取り込んでの問題解決はミャンマーの後ろ盾である中国への配慮もあるとみられていた。カンボジアはラオスと並んでASEAN内の親中国派であることと無縁ではないことがマレーシアなどの反発の一因とされている。何れにせよこのままでは11月に開催予定とされるASEAN首脳会議にミャンマーのミン・アウン・フライン国軍司令官を招待する見込みは薄い。
一方でマレーシアのサイフディン・アブドゥッラー外相が中心となってASEANのこれまでのミャンマー問題に対すアプローチを変えて、さらなる強硬姿勢を打ち出すべきだとの機運が高まっていると言われる。
果たして、NUGのドゥア・ラシ・ラ大統領代行やマン・ウィン・カイン・タン首相を「ミャンマーの首脳」として出席を求めることになるのか、ミャンマーの首脳欠席で開催するのか。ASEANはミャンマー問題で大きな岐路を迎えることになる可能性が高い。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など